E2381 – Elsevier社からのOA出版割引を含めた契約の提案について

カレントアウェアネス-E

No.412 2021.05.13

 

 E2381

Elsevier社からのOA出版割引を含めた契約の提案について

大学図書館コンソーシアム連合事務局

 

●はじめに

   大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE;E1189参照)は,2020年8月24日にElsevier社からのオープンアクセス(OA)出版割引を含めた契約の提案に合意した。本稿では,この合意に至るまでの経緯とその提案内容について紹介する。

●OA2020関心表明への署名からCUPとの提案合意まで

   JUSTICEは,2016年8月9日付けで,学術雑誌の購読モデルからOA出版モデルへの転換を目指す国際的なイニシアティブOpen Access 2020(OA2020)の関心表明(Expression of Interest:EoI)に署名した。その後,ロードマップの公開(2019年3月19日公開)など様々な活動を経て,ロードマップに対応した取り組みとなった英・ケンブリッジ大学出版局(CUP)からのRead & Publishモデルの提案に合意(2019年8月29日)した(E2259参照)。

●Elsevier社からの提案

   JUSTICEは,ロードマップの公開後,各出版社にロードマップを送付するなどの働きかけを行ってきた。2020年初頭に,Elsevier社からOAを支援する提案の打診があった。その後,数回の交渉を経て,2020年8月24日にElsevier社と提案に合意するに至った。

   交渉は,価格上昇率をはじめとする各種条件に留意しつつ,従来の購読モデルを選択する機関に不利益が発生しないことを確認しながら進められた。

   提案期間は2021年から2023年である。JUSTICE会員館は,購読モデルとゴールドOAオプションが付加されたモデルのいずれかを選択できる提案となっている。後者の場合は,購読費にOA出版割引を受けるための経費を加算した金額を支払うことで,契約機関に所属する著者はOAで論文を出版する際,論文処理費用(APC)の割引を受けることができる。ただし,Cellブランドのハイブリッド誌,Lancetブランドのハイブリッド誌およびいくつかの学会誌は割引を受けることはできない。また,CellブランドのフルOA誌,LancetブランドのフルOA誌は通常のAPC割引よりも低い割引率が設定されている。

   著者へのAPC割引の提供は以前から提案があったモデルであり,いわゆるRead & Publishモデルなどとは異なるが,JUSTICEは購読とOA出版双方の要素を含む多種多様なモデルの提案を歓迎しており,Elsevier社の提案はこのJUSTICEの要請に応えたものと言える。

   JUSTICEはオプトイン形式のコンソーシアムであり,この提案に基づいて契約を締結するかは各会員館の判断に任せられるが,結果として2大学が,ゴールドOAオプションが付加されたモデルを選択して契約している(2021年4月現在)。

   更に,購読モデル,ゴールドOAオプションが付加されたモデルのどちらの場合においても,複数年契約を選択したJUSTICE会員館は,グリーンOAオプションを付加することができる提案となっている。グリーンOAオプションを付加すると,機関に所属する責任著者の論文のメタデータ並びにElsevier社のサーバ上で閲覧できる著者最終稿(Accepted Manuscript)へのリンク情報の提供を受けることができる。機関リポジトリにこれらの情報を取り込むことによって,「論文の最適なバージョン」(Best available version)へのリンクを案内できる。通常は利用者の所属機関が購読契約をしている時のみ出版社のウェブサイトで論文を閲覧できるが,購読契約をしている機関に所属していなくても,機関リポジトリに記載されたリンクを経由してElsevier社のサーバにアクセスすることで,エンバーゴ期間が過ぎた論文については著者最終稿を閲覧できる。

●最後に

   今後は,本提案についての評価のプロセスを経ながら,次の提案に向けての課題と改善点についてElsevier社およびJUSTICEで協議を続けていく。そのためにも,Elsevier社からのOA論文の出版数の推移データや各会員館におけるOA論文投稿数の変動などについて検証が必要である。また,グリーンOAオプションの機関リポジトリへの影響についても検証していく必要がある。

   JUSTICEは各出版社からの多種多様なOAに関する提案を今後も歓迎し,交渉を続けていく予定である。

Ref:
“プレスリリースのお知らせ: JUSTICEとエルゼビア、OAの目標を支援するための提案に合意”. 大学図書館コンソーシアム連合. 2020-11-18.
https://www.nii.ac.jp/content/justice/news/2020/20201118.html
“エルゼビアと大学図書館コンソーシアム連合、オープンアクセスの目標を支援するための購読契約提案に合意” エルゼビア・ジャパン株式会社. 2020, 3p.
https://www.elsevier.com/__data/assets/pdf_file/0004/1090408/20201118-Press-Release-JUSTICE_Elsevier_JP.pdf
“Expression of Interest in the Large-scale Implementation of Open Access to Scholarly Journals”. Open Access 2020.
https://oa2020.org/mission/
“Open Access 2020の関心表明に署名しました”. 大学図書館コンソーシアム連合. 2016-08-09.
https://www.nii.ac.jp/content/justice/news/2016/20160816.html
大学図書館コンソーシアム連合. “購読モデルから OA 出版モデルへの転換をめざして~JUSTICE の OA2020 ロードマップ~”. 2019-03-05.
https://www.nii.ac.jp/content/justice/overview/JUSTICE_OA2020roadmap-JP.pdf
“Elsevier-JUSTICE Agreement”. Elsevier.
https://www.elsevier.com/open-access/agreements/justice
大学図書館コンソーシアム連合JUSTICEの誕生:現状とその将来. カレントアウェアネス-E. 2011, (196), E1189
https://current.ndl.go.jp/e1189
大学図書館コンソーシアム連合事務局. CUPからのRead & Publishモデル契約の提案について. カレントアウェアネス-E. 2020, (391), E2259
https://current.ndl.go.jp/e2259