E2380 – 水害の記録・記憶をつくる市民参加型プロジェクト

カレントアウェアネス-E

No.412 2021.05.13

 

 E2380

水害の記録・記憶をつくる市民参加型プロジェクト

東北大学災害科学国際研究所・佐藤翔輔(さとうしょうすけ)

 

   東北大学災害科学国際研究所は,2020年11月6日に,水害の地域を特定して分析する目的に加えて内水氾濫の記録をアーカイブとして残すことも目標に「みんなでSNSマッピングプロジェクト」を立ち上げた。本稿ではこのプロジェクトについて紹介する。

●2つの「水害」の種類

   日本は,水害が多い国である。水害には,川の水が多くなって堤防を越えて水があふれたり(越水),大量の水が流れる大きな力で堤防が壊れたりすることで(決壊),地域が浸水してしまう「外水氾濫」と,まちに降った雨の量が多くなって排水能力を超えて排水溝やマンホールから水があふれる「内水氾濫」の2種類がある。

   大規模な浸水になる「外水氾濫」は多く報道・調査され,地方公共団体によって対策が取られるのに対して,「内水氾濫」については浸水しても記録に残らないことが多いため,十分に記録・対策ができているとは言い難い。内水氾濫を起こさないようにする取り組みは,地面の下に流せる・貯めることができる水の量を増やすこと(下水道,貯水タンクなどの整備)であるが,2016年度末時点の都市浸水対策達成率は約58%にとどまる。

   厄介なことに水は必ず同じ場所に戻ってくる特性があり,同程度の豪雨が起きると内水氾濫は何度も同じ場所で起こる可能性がある。

●「みんなでSNSマッピング」プロジェクトを立ち上げる

   最近では,災害が起きると被害の状況を撮影した写真や映像がSNSに多く投稿されるようになってきた。これは,リアルタイムで現場の状況を知ることができる情報であると同時に,しばらく経った後に「過去にこんなことが起きた」ことを知ることができる貴重な記録でもある。

   SNS上には,報道・調査されていないような内水氾濫の状況が多く投稿されている。しかし,どの情報が正確な水害被害の情報なのか,フェイク情報ではないか,など課題がありSNS上からピンポイントに情報を収集することは技術的に難しいことであった。

   そこでSNS上から災害・事故・事件などのリスク情報収集を行なっているJX通信社から,正確かつ網羅的に情報収集できるよう協力を得た。2020年1月から検討を開始し,同年11月にプロジェクトを公開した。JX通信社からは,任意の水害に関するTwitterの投稿(写真・動画)を人工知能(AI)技術によって抽出したもののリストの提供を受けることができるようになった。

 水害による被害は広域にわたるため,撮影・投稿された写真・映像には「正確な位置情報」が付いていないものが多いのが実態である。しかし,この貴重な記録を活用できるようになるためには,撮影された場所の「正確な位置情報」が必要不可欠である。

   そこで筆者らは,大雨・台風の主に浸水被害や土砂災害の状況について撮影しTwitterに投稿された写真・映像等へのリンクを地図上に参加型でマッピングするプロジェクトサイトを作成した。

●「みんなでSNSマッピング」プロジェクトとは

   プロジェクトサイトには,投稿された写真・映像が「仮の場所」でマッピングされている。参加者が住む地域などにマッピングされている写真・映像を確認し,それが撮影された「正確な場所」をフォームに入力すると,プロジェクト事務局において,その情報をもとに位置情報の修正を重ねるという「みんなでマッピング」する参加型プロジェクトである。なお,プロジェクト参加にユーザー登録は必要なく,気軽に参加できる。

   現在対象としているのは,2019年台風第19号と2020年7月集中豪雨である。台風第19号で6,888件(2019年10月11日から13日に投稿されたもの),7月豪雨で4,928件(2020年7月7日から30日に投稿されたもの)がプロジェクトサイト上に掲載されている。公開後,数十件について「正確な場所」の情報が寄せられている。この記録が,より精緻なものになるためには,より多くの人からの協力が必要になる。今後,情報の周知や利用促進のためのワークショップなどを開催したい。

   日本は水害の多い地域である。貴重な記録・経験を後世に残すために,ぜひご協力いただければ幸いである。多くの皆様のご支援・ご協力をお願いしたい。

Ref:
“大雨・台風の被害・教訓を後世に 「みんなでSNSマッピングプロジェクト」” . 東北大学災害科学国際研究所xJX通信社共同プロジェクト.
https://social-mapping-project-irides.hub.arcgis.com/
“居住地で起こる水害『内水氾濫』の場所をつきとめ、防災につなげる東北大学×JX通信社プロジェクト”.FASTALERT.
https://fastalert.jp/bcp/flood-from-inland-waters