E2355 – アマビエでつながる地域と図書館:信頼性のある情報発信

カレントアウェアネス-E

No.408 2021.02.18

 

 E2355

アマビエでつながる地域と図書館:信頼性のある情報発信

くまもと森都心プラザ図書館・石本美夏(いしもとみか)

 

   くまもと森都心プラザ図書館は,新型コロナウイルス感染症感染拡大防止のため2020年2月29日から5月20日までの82日間,休館を余儀なくされた。来館者サービスが実施できない中,「アマビエという妖怪について詳しく知りたい」という問い合わせの電話をきっかけに様々なサービスを開始した。これらのサービスは,当館の所蔵資料から得られる情報等に基づいたサービスという点等が評価され,2020年11月4日に第6回図書館レファレンス大賞文部科学大臣賞を受賞した。以下では,コロナ禍に当館で行った取り組みを紹介する。

   レファレンスには,所蔵している郷土資料や民俗学の資料を駆使し,回答を行った。調査の過程で,アマビエは「疫病を鎮める」とされた妖怪であることが判明した。さらに,幕末当時に発行された瓦版には,アマビエが私たちの郷土「肥後国(現熊本県)に出現した」という目撃談が報じられていた。当時の熊本は現在と非常に似た状況で,自然災害が相次ぎ,さらに,疫病も流行していた。アマビエは,今でこそ全国的に有名になり,関連グッズまで販売されるほどの人気だが,レファレンスを受けた当時はまだ一部のSNSでささやかれている程度で,熊本人の私たちにとって,なじみのない妖怪だった。そのため,この調査に基づきアマビエについて,もっと熊本の人々に知ってほしいと考えたのである。

   また,私たちは2016年,巨大な熊本地震に遭遇した際,社会に不確かな情報が広まり,人々の不安が拡大したことを体験した。今日も同じ状況であり,コロナ禍の終息の見通しが立たないことやSNSには真偽不明の情報が流れるなど,不安・混乱を拡大させる側面があった。そこで,思い込みを排し,データや信頼性のある情報に基づいた正しい判断をすることの重要性が増していると考え,この状況下に図書館がとるべき活動は「確かな情報源から得られた情報を提供する」ことだと確信し,オンラインでの情報発信をはじめとした新たなサービスを展開したのである。

   最初に,「アマビエの絵姿を広めると,疫病が鎮まる」という伝承に則り,図書館オリジナルのイラストと,前述のレファレンス調査で得られた情報を,当館のTwitterで発信した。そして,アマビエ伝承の詳細と参考文献をイラストとともに記載し,休館中であっても,電話やメールでレファレンスサービスを行っていることも掲載した現代版「瓦版」を作成した。これらは,3月20日より,臨時休館を知らずに来館した人や,返却のため来館した人が持ち帰ることができるよう返却ポストに設置した。また,誰でも立ち寄ることができる当施設の2階観光・郷土情報センターでも配布を行った。

   次に着手したのが新型コロナウイルス感染症関連のリンク集の作成である。すでに大手ポータルサイトを中心に総合的なリンク集がいくつか公開されていたが,それらは「全国を対象とした,政府の支援策」を主に紹介したものだった。そこで各省庁のみならず,熊本市・熊本県・商工会議所などの公式ウェブサイトを徹底的に調査し,併せて当館と同フロアにある「ビジネス支援センター」の緊急相談サービスも加え,求められる状況に応じた情報を分類整理しウェブサイトに掲載した。さらに,外出自粛の長期化でDVに悩む人・妊娠中の人・ペットの飼い主・熊本市に滞在する外国人など,必要な情報を探すのが難しい人への支援情報にも配慮し,参考となる情報源をまとめた。リンク先のチェックは,日々内容が更新されるため毎日行った。

   次に,新型コロナウイルス感染症関連リンク集の情報収集を行う中で,就職活動生に対する支援が手薄であることに気がついた。当時は,大手就活サイトの「業界研究コンテンツ」も新型コロナウイルス感染症の影響が加味されておらず,経済の見通しもオリンピック開催を前提とした内容のまま更新されていない状況であった。そこで,当プラザの熊本地震復興応援キャラクター「とっとこ王」がアマビエから指南を受けるというマンガ形式のパスファインダーを作り,当館のTwitterで発信したのである。就活サイトだけに頼らない,信頼性の高い情報源を活用した仕事研究のノウハウに加え,新型コロナウイルス感染症の影響を受けた業界展望を知るための情報源として,各種シンクタンク・商工会議所などのウェブページを紹介した。

   以上の情報発信と同時に,アマビエの調査ツイートをリンクさせたQRコードを印刷した「しおり」と,子どもが自宅で遊べるように「とっとこ王」とアマビエの「ぬり絵」も作成し,館内の展示コーナー,カウンター,入口に自由に持ち帰れるよう設置し,普及に努めた。これらの配布物は,「熊本の皆さまに,少しでも明るい気持ちになっていただけたら」との気持ちを込めたものである。また,5月21日の再開館の際,地域のアーティストの作品などを展示する図書館入口横の展示ケースも,外部への依頼が困難になったことを逆手に取り,不要になった本の帯を活用してアマビエと「とっとこ王」,熊本城の巨大モザイクアートを当館職員で作成し展示した。

   現在も新型コロナウイルス感染症関連のリンク集をはじめとする,情報発信元が明確で信頼できる確かな情報の発信を続けている。就活情報のツイートは,閲覧数が現在2,000近いものもあり,アップロード後すぐにリツイートされるなど,多くの利用者が当館の発信する就職活動情報を楽しみにしてくれていると,手ごたえを感じている。さらに,現役大学生からアドバイスを受け検索しやすいように改善した。また,第6回図書館レファレンス大賞文部科学大臣賞受賞後,地元新聞やテレビで取り上げられたことにより図書館がこのような取り組みをしていることを知らなかったと驚きの声がよせられた。加えて,利用者からアマビエのレファレンスで使用した書籍についての問い合わせが相次いだ。

   今回の取り組みは,来館者サービスの提供を絶たれた図書館が,歩みを止めるのではなく,「信頼性のある正しい情報」を,オンラインをはじめとしたさまざまな方法で発信し続けたことで,サービスの可能性を提示できたものなのではないかと考える。今後も当館は,利用者に寄り添った情報発信を担う図書館として,「今求められていることは何なのか」「これからの図書館サービスはどうあるべきか」を模索し,挑戦し続けていく。

Ref:
“プラザ図書館”. くまもと森都心プラザ.
https://stsplaza.jp/library/index.html
“決定!図書館レファレンス大賞”. 第22回図書館総合展_ONLINE. 2020-11-04.
https://2020.libraryfair.jp/news/2020-11-04
“第6回図書館レファレンス大賞で、文部科学大臣賞を受賞いたしました!” . くまもと森都心プラザ. 2020-11-05.
https://stsplaza.jp/library/news/2020/11/6_2.html
“【修正版】アマビエでつながる地域と図書館”. YouTube. 2020-10-22.
https://youtu.be/SSfgYwRtCe8
@stsplaza. Twitter. 2020-03-14.
https://twitter.com/stsplaza/status/1238738590168801280
@stsplaza. Twitter. 2020-05-18.
https://twitter.com/stsplaza/status/1262216338627391489
“アマビエ紹介、文科大臣賞 蔵書基に正確な情報 森都心プラザ図書館(熊本市)”. 熊本日日新聞. 2020-11-06.
http://kumamotto.kumanichi.com/index.php/kumacole/interest/1667364