E2354 – アンフォーレと安城市図書情報館の挑戦

カレントアウェアネス-E

No.408 2021.02.18

 

 E2354

アンフォーレと安城市図書情報館の挑戦

安城市アンフォーレ課・市川祐子(いちかわゆうこ)

 

   2017年にオープンした「安城市中心市街地拠点施設アンフォーレ(以下「アンフォーレ」)」およびその中核施設である安城市図書情報館(愛知県)は,この度「Library of the Year 2020」のオーディエンス賞を受賞した。本稿では,特に評価されたポイントを中心に,当館の取組みを紹介したい。

●市民の「知の情報拠点」を目指して

   安城市図書情報館では,市民の一番身近な「知の情報拠点」として乳幼児から高齢者まで誰もが自由に利用できるよう,3つの新しい取組みを行った。

   まずは,排架を「自由」にした。図書館員は慣れている日本十進分類法(NDC)だが,初めて訪れる市民にとっては意味のわからない数字の羅列でしかない。そこで,3階フロアを中心に13の独自ジャンルを設定し,その中でNDC順に排架することで,ジャンルから資料を探せるよう工夫した。例えば,食文化(NDC383.8),栄養学(NDC498.5),食品工業(NDC588),料理(NDC596)などを「料理:C」としてまとめたり,2階子どものフロアに絵本・児童書とともに子育て・教育の本を並べたりと,誰もが直感的に利用できる排架を構築した。なお,館内OPACでの検索結果には棚番号が表示されるため,ピンポイントでのアクセスも容易となっている。

   特にこだわったのは,中高生をメインターゲットとした「らBooks」コーナーである。ヤングアダルト(YA),各分野の入門書,進路・就職などに関する資料で構成したこのコーナーは,フロアの一番目立つ場所に設置し,司書が厳選した資料のみを排架した。平均全体蔵書回転率1.1のところ,このコーナーは6.7と非常に良く利用されている。

   2つ目に,会話・飲食を「自由」にした。もちろん,他人の迷惑になるような声量や振る舞いは注意するが,マナーを守った上での利用は自由である。一般向けフロアである3階・4階では飲酒さえ可能だ。

   このルールの効果は,子どものフロアで顕著に表れた。親子で本を探し,読み聞かせをする中では,楽しい会話が生まれるのは当然である。また,乳幼児にはどうしても声が大きくなったり,飲食が必要な時がある。彼らにたくさん利用してほしいならば,静寂を守るというルールは足枷でしかない。実際,幼い子連れの来館者は,2017年の開館以来目に見えて増えている。

   さらに,図書館の蔵書の利用場所を「自由」にした。市内12か所の公民館図書室などに加え,小中学校との物流を開始し,子どもは学校に居ながらにして公共図書館の蔵書を利用できるようになった。公民館図書室等や学校図書館から予約された資料は物流ネットワークに載り,早ければ当日中に提供できる体制が整っている。

   これらの自由を支えているのがスタッフである。フロアでは積極的に利用者に挨拶をし,困っている様子があれば声をかける。レファレンスではインカムで情報を共有し,蔵書検索の間に別のスタッフがブラウジングやデータベース検索に走るという同時並行的な調査を行う。全員で情報共有することで,精度の高い回答を提供できるとともに,スキルの向上にもつながっている。

●更なるサービスを生む連携

   アンフォーレ本館の2階から4階を占める安城市図書情報館内には,市商工課のビジネス支援機関「安城ビジネスコンシェルジュ(ABC)」,子育て支援課の「つどいのひろば」,健康推進課が講座を開催する「健康支援室」が設置されている。本館1階には市民課の窓口があり,ホール・広場などは貸スペースとして指定管理者が運営し,カフェやスーパーマーケットなど民間の事業者もアンフォーレ内に同居する。これら各組織の連携の要となっているのが,筆者が所属する市アンフォーレ課である。アンフォーレ課は図書情報館を運営するほか,他部署やまちなか(JR安城駅から名鉄南安城駅までの市街地や当市に縁のある新美南吉の足跡が残る市内外の場所・地域)との連携を担当する係があり,施設全体としてのシームレスなサービスの礎となっている。

   例えば,ビジネスレファレンスの中で司書が「ABC」を紹介,「ABC」側も相談業務の中で図書館資料を案内するなど双方向のサービスを行う。また,図書館利用者が広場で開催されるイベントに参加したり,イベントに関連した展示を図書館で実施するなどの相乗効果も生まれている。

●「日本デンマーク」のにぎやかな公共図書館

   アンフォーレには様々な利用者が訪れる。中には「こんなうるさいところは図書館ではない」「図書館で飲食するなんて」という市民もいるし,テスト週間になれば中高生が大挙して押し寄せて騒がしく,批判されても仕方がないと感じることもある。しかし,若い層を中心に多くの利用者が来館するようになったのは紛れもない事実だ。来館者は毎年100万人を超え,貸出密度は同規模地方公共団体51市の中で全国1位となった。学校連携での貸出も約13万冊と飛躍的に増加した。「ABC」への相談は目標の4倍となる年間3,000件を数え,エントランスなどの貸スペースは毎日多くの出店者で溢れ,まちなかの賑わいに貢献している。SNS上ではアンフォーレを活用している人々の生の声を見ることができる。

   大正末期から昭和初期にかけて日本を代表する農業の先進地であった安城は,世界の農業国デンマークから名を取り「日本デンマーク」と呼ばれていた。『デンマークのにぎやかな公共図書館』の著者・吉田右子氏によれば,北欧でにぎやかな図書館が現れ始めたのは1970年代である。そして50年経った今,公共図書館はにぎやかなところという考えが根付いているそうだ。アンフォーレで育った安城市の子どもが大人になる時には,もしかしたらこれが当たり前の図書館の姿になっているのかもしれない。

Ref:
“Library of the Year 2020 大賞・オーディエンス賞決定!”. IRI知的資源イニシアチブ. 2020-11-06.
https://www.iri-net.org/loy/library-of-the-year2020result/
“Library of the Year 2020 選考委員長コメントおよび受賞機関コメント公開”. IRI知的資源イニシアチブ. 2020-12-17.
https://www.iri-net.org/loy/loy2020report/
安城市図書情報館.
https://www.library.city.anjo.aichi.jp/
安城市中心市街地拠点施設アンフォーレ.
http://anforet.city.anjo.aichi.jp/
“アンフォーレ(安城市図書情報館)をめぐる100のツイート”.Togetter. 2020-10-06.
https://togetter.com/li/1604250
市川祐子. 安城市図書情報館における学校図書館支援サービス. 学校図書館, 2020, (838), p. 67-70.
吉田右子. デンマークのにぎやかな公共図書館 : 平等・共有・セルフヘルプを実現する場所. 新評論, 2010, 264p.
吉田右子. 特集, 最近の海外図書館事情を探る:自己との対話・他者との会話 : 21世紀のデンマーク公共図書館がめざすもの. 図書館雑誌, 2015, 109(4), p. 220-222.