E2379 – AI蔵書点検サポートサービス実証実験の成果と課題

カレントアウェアネス-E

No.412 2021.05.13

 

 E2379

AI蔵書点検サポートサービス実証実験の成果と課題

船橋市西図書館・中林良太(なかばやしりょうた)

 

   船橋市西図書館(千葉県)では,京セラコミュニケーションシステム株式会社(KCCS)が開発した人工知能(AI)による蔵書点検サポートサービス「SHELF EYE」(シェルフアイ)について実証実験を行っている。「SHELF EYE」は本の背表紙画像をAIで解析して蔵書点検の効率化を支援するシステムである。本稿では,当館で実施した「SHELF EYE」と従来の蔵書点検との比較実験の成果,今後の展望について紹介したい。

●実証実験に至った背景

   船橋市には4つの図書館のほか,分館的機能を持つ14か所の公民館等図書室と蔵書を持たない2か所の図書貸出返却窓口,そして1台の移動図書館があり,市全体の蔵書冊数は約161万冊である。2016年10月からICタグ管理を開始しているが,一部ICタグを貼付しきれていない資料が存在していることから,蔵書点検時にはICタグ読取機と従来どおりのバーコード読取機器を併用している。そのようななかで,当館で導入している図書館システムのベンダーであるKCCSが蔵書点検AIの開発を行うという話を聞き,ICタグ管理と比較して導入コストが抑えられるとのことであったことから,2020年3月から蔵書点検AIによる実証実験に協力することとした。

●これまでの成果

   2020年度は年間を通して,KCCS社員が時間や天候など様々な条件のもとで書架撮影を行い,AIに背表紙画像を学習させる作業と画像解析の精度向上に向けた調整を行った。そして2021年2月22日に,当館の文庫・新書1万4,405点を対象として,バーコード,ICタグ,「SHELF EYE」の3つの方法での蔵書点検に必要な時間や精度の比較実験を実施した。

   まず,読み取りに要した時間については,バーコードが529分,ICタグが180分,「SHELF EYE」が206分となった。タブレット端末のカメラ機能で書架を撮影し,その画像を事前学習データと照合して点検を行う「SHELF EYE」はICタグ読込に近い速度での読み込みが可能であり,バーコード単体での運用と比較すると大きく短縮できることがわかった。

   精度については,バーコードが98.8%,ICタグが98.7%とほぼ同等の網羅率となっているのに対して,「SHELF EYE」は95.6%となっており,実証実験の段階とはいえ,一定の精度を確認することができたとの報告であった。

●現在の課題

   精度が落ちた理由として,AIが未学習の資料が含まれているなど,改善が容易に見込まれるものも含まれてはいるが,学習済みの資料に対してもAIが誤って判定したものが少なからず存在するということも事実である。また,AIの誤判定により照合結果がOKと判定された資料が30点ほど存在しており,この点については改善が求められる。

   なお,今回の比較実験は,前述のとおり文庫・新書のみを対象としており,背表紙の厚さや高さなどの規格がある程度揃っている中での検証である。実際に館内すべての蔵書を対象とした蔵書点検では厚さや高さがよりばらけた状態でAI解析を行うため,今後一層の精度向上が求められる。

   そして,図書館員としては複本の判別も大きな課題の1つと考える。今回の比較実験では,館内に複本が存在する資料については照合できなかった資料としてカウントされたが,KCCSの今後の方針としては,撮影最中に複本があれば個別に資料番号を読み込んで確認できる機能を検討予定とのことである。ただし,市内他館所蔵の複本が紛れ込んでしまっていた場合には,本来自館にあるべき冊数と一致する等すればエラーとして検知されずに無視されてしまう。対策として,複本の背表紙に所蔵館ごとのマークをつけるなど装備に変化をつけることで他館資料との識別が可能であるが,導入前の準備作業として追加負担は発生してしまう。

   他にも,実際の運用を想定すると,AI分析の基となる初回の背表紙画像登録など図書館側の作業が発生することが予見される。導入による職員作業を軽減できる仕組みなど,「SHELF EYE」の周辺環境の整備も今後求められることになるだろう。

●今後の展望

   現在,KCCSは自社の図書館システムと「SHELF EYE」を連携させることで,資料の検索結果を背表紙画像で表示する「仮想本棚」機能の実装を予定しているようだ。また将来的には,オンライン上で実際の書架を歩き回るような感覚で本を探せるシステムも検討しているとのことである。今後は,根幹となるAIの精度の向上はもちろんのこと,他システムとの連携などにより,収集した背表紙画像が蔵書点検だけに限らず様々な場面で図書館員や利用者をサポートするものとなることを期待したい。

Ref:
“AI蔵書点検サポートサービス「SHELF EYE」”. KCCS.
https://www.kccs.co.jp/ict/service/shelfeye/
“公共図書館システム「ELCIELO」、画像解析AIによる蔵書点検システムを開発へ”. KCCS. 2019-11-06.
https://www.kccs.co.jp/news/release/2019/1106/
“船橋市西図書館、画像解析AIによる蔵書点検システム試験導入へ”. KCCS. 2020-03-12.
https://www.kccs.co.jp/news/release/2020/0312/
“本の背表紙画像をAIで解析、AI蔵書点検サポートサービス「SHELF EYE」を提供開始”. KCCS. 2021-02-25.
https://www.kccs.co.jp/news/release/2021/0225/
阿部崇宣. 小特集, AIを活かす図書館:船橋市図書館と京セラコミュニケーションシステム共同実証実験~AI蔵書点検システムの実用化に向けて~. 図書館雑誌. 2020, 114(8), p. 414-415.