E2258 – 山形県立図書館のリニューアルについて

カレントアウェアネス-E

No.391 2020.05.28

 

 E2258

山形県立図書館のリニューアルについて

山形県村山総合支庁(元山形県立図書館)・菊池綾子(きくちあやこ)

 

   2020年2月1日,山形県立図書館がリニューアルオープンした。現在の遊学館に移転した1990年から四半世紀が経過し,開館当時と求められる役割や活用状況が変化したことに加えて,一部施設・設備の老朽化が見受けられたことから,県立図書館のさらなる活性化に向け改修することを決定し2016年3月にその指針となる「山形県立図書館活性化基本計画」を策定した。翌2017年12月には工事概要を公表し,「県民が集い・学ぶ 本のまち」を基本コンセプトに,2018年8月に改修工事は始まった。

   改修工事では,外観は基本的に変えず内部の改修によって図書館エリアの面積を1.5倍,閲覧席を約3倍にすることを目指した。また,「開館しながら」の工事を実施した。工事期間中は施工場所を切り替えながら,開館エリアも移動してサービスを継続させ,切り替わりの間に2週間から4週間程度の休館を2度設けた。「開館しながらの工事」は,設計では気づけなかった施設の構造上の問題に直面した場合でも,毎日設定した図書館と施工業者の打ち合わせにより速やかに情報を共有し,コミュニケーションを密に図ることで施工業者の高い技術力の支援を受けて問題を解決することができた。新しい山形県立図書館は,職員のみならず,関わった全員で作り上げた手作り感満載の図書館であると思っている。

   改修では,利用者の居心地の良さにこだわった。1階にはBGMを流し入りやすさをサポートした。中庭に面したエリアにはソファーや形の違う椅子を並べ気ままな読書空間を演出した。陽当たりの良い窓辺での読書は人気のスポットとなっている。また,バリアフリー化にも力を入れ,書架にはNDCピクトグラムを導入した。対面朗読室にはそらまめ色の椅子を設置しカジュアルな空間を目指した。電源付きの机はサテライトオフィスとしても活用されているようだ。児童書コーナーは改修前は2階の一般書架と隣接し,こどものための読書空間でありながら読み聞かせに不自由な配置であったが,1階の北側に「こどもエリア」として充実させた。「おはなしの部屋」を設けいつでもこどもに読み聞かせができるようになった。近くにはこども用トイレ,授乳室・おむつ替えシートを備えた赤ちゃん休憩室,ベビーカー置き場があるので,長い時間の滞在でも安心である。リニューアル後館内にこどもの笑い声が広がった時の感動は忘れられない。このような利用者に向き合った空間づくりは,他館を見学することで学んだものである。

   オープン2日間での来館者は6,000人を超えた。この賑わいはその後も続き,開館後1か月で1日平均の入館者数と貸出冊数は改修前の2倍近くで推移し,更に新規登録者数は1年間の実績に並んだ。来館者からは「これからの図書館,行きたい居場所のような図書館」との感想が寄せられた。館内の開架冊数は改修後約4万冊増え約22万冊となったが,大幅な増加とまではならなかった。それでも「本がたくさん増えた」「読みたい本がたくさんある」との感想が多く寄せられたのは,面出しを増やし魅せる書架づくりを工夫した成果といっていいのではないだろうか。以前の図書館ではその存在すら気づかれなかった本が一斉に動きだしたように感じた。

   リニューアルした館内に行き交う多くの利用者を見て,「図書館には利用者がいてこそ,その機能が発揮される」ことが改めて分かった。すべての本には読者がいて,すべての利用者には読みたい本がある。当たり前のことなのにリニューアル前にはどれだけできていただろうか。

   筆者はこの春の人事異動により図書館を離れた。職員として図書館の運営に関わることができなくなってしまったが,県の職員としては県立図書館には特に今,「学び場」としての役割を期待している。新型コロナウイルス感染症拡大の影響により,学ぶ機会を失った子どもたちが世界中に多くいる。その解決策としてオンライン授業が進められているが,県立図書館で新しく設置したアクティブラーニングルームがその活動に役立つのではないだろうか。そこには電子黒板システム,大型のプロジェクター,実物投影機が一体的に整備されている。図書館員の機動力と想像力の発揮こそ求められていると思う。

   小さな県立図書館は,改修工事により多くの県民の方に利用される図書館としての一歩を踏みだすことができた。そしてここからが正念場である。図書館員のホスピタリティの精神とサービス向上のための不断の努力こそ,基本コンセプトである「県民が集い・学ぶ 本のまち」を掲げる大きな県立図書館として利用者の心に届き読書の輪が拡がるだろう。図書館の存在が,県民の夢や未来に役立つと信じている。

   県立図書館の現状については,ウェブサイトをご覧いただきたい。

Ref:
“リニューアルオープンイベントについてお知らせします”. 山形県立図書館.
https://www.lib.pref.yamagata.jp/?page_id=459
山形県教育委員会. 山形県立図書館活性化基本計画. 2016-03.
https://www.pref.yamagata.jp/ou/kyoiku/700015/library/kentouiinkai/H27keikaku-zentai.pdf
“山形県立図書館大規模改修工事についてのお知らせ”. 山形県立図書館. 2017-12-20.
https://www.lib.pref.yamagata.jp/index.php?key=jogwhn82a-868
“館内案内”. 山形県立図書館.
https://www.lib.pref.yamagata.jp/?page_id=307
山形県立図書館.
http://www.lib.pref.yamagata.jp