カレントアウェアネス-E
No.112 2007.08.29
E688
ブルーシールド―危険に瀕する文化遺産の保護のために<文献紹介>
Koch, Corine[tr]. ブルーシールド―危険に瀕する文化遺産の保護のために. 国立国会図書館訳. 日本図書館協会, 2007, 103p.
ブルーシールドとは,まだまだ一般にはなじみがないかもしれないが,戦争や災害から文化財を保護する,いわば「文化財のための赤十字」に相当するものである。武力紛争に際して,攻撃を差し控えるべき文化遺産を示すために,「武力紛争の際の文化財の保護に関する条約(1954年ハーグ条約)」で指定された標章の通称であり,青色と白色からなる盾の形をしている。また,武力紛争だけでなく,自然災害も含めた災害から文化遺産を保護するために設立されたブルーシールド国際委員会(International Committee of the Blue Shield:ICBS)の名称でもある。ブルーシールド国際委員会(ICBS)は文化財保護に関する5つの非政府組織―設立時のメンバーである国際図書館連盟(IFLA),国際文書館評議会(ICA),国際博物館会議(ICOM),国際記念物遺跡会議(ICOMOS)および,2005年に加わった視聴覚アーカイヴ組織調整協議会(CCAAA)―で構成されている。
本書は,このブルーシールドの周知を目的に開催されたセミナーの報告集の日本語訳である。セミナーはIFLAの2002年年次大会において開催され,翌年,英仏2か国語による報告集がIFLA資料保存コアプログラム(IFLA/PAC)の刊行物“International Preservation Issues No.4”として刊行された。
本書に収められた最初の報告は,1954年ハーグ条約とその議定書,および1999年に採択された第二議定書の作成背景や目的を解説したものである。著者のボイラン(Patrick Boylan)氏はICOMの副会長を務め,第二議定書策定において重要な役割を担った人物である。2番目の報告は,2001年までICBSのICA代表を務めたマッケンジー(George Mackenzie)氏によるICBSの紹介である。3番目は,同じくICBSのIFLA代表であり,2006年までPAC国際センター長を務めたバーラモフ(Marie-Therese Valamoff)氏による報告で,資料防災計画の必要性を訴えるものである。残りの2つは,国際社会を襲った災害に関する報告である。1966年にイタリア・フィレンツェを襲った洪水と2001年9月11日に米国で起こった同時多発テロ事件であり,それぞれ,実際の災害を通して得られた教訓が述べられている。
このほか本書には,参考資料としてハーグ条約の日本語訳が全文収録されている。これは2007年の第166回国会においてハーグ条約締結が承認され,関連国内法「武力紛争の際の文化財保護法」(平成19年4月27日法律第32号)が成立したのを受けて定まったもので,日本語訳の報告集にのみ収録されている。
Ref:
http://www.ifla.org/blueshield.htm
http://www.ifla.org/VI/4/news/ipi4-e.pdf
http://jlakc.seesaa.net/article/47591292.html