E687 – 望ましい大学図書館システムとは?<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.112 2007.08.29

 

 E687

望ましい大学図書館システムとは?<文献紹介>

国立大学図書館協会学術委員会図書館システム検討ワーキンググループ. 今後の図書館システムの方向性について. 2007, 61p. http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/projects/si/systemwg_report.pdf,(参照2007-08-28).

 国立大学図書館協会は2006年12月,学術情報委員会の下に図書館システム検討ワーキンググループを設置し,デジタル情報環境下に相応した将来の図書館システムの方向性について,2007年3月まで議論を行ってきた。このほど,この議論を踏まえ,ワーキンググループ委員が各々独自の視点・問題意識から記述した各章からなる報告書『今後の図書館システムの方向性について』が公表された。

 本報告書ではまず,現在のパッケージ化された図書館システムの課題を提示している。現在の図書館システムは,紙媒体の資料を対象とし,その管理と利用を主たる目的としているが,今後は対象を電子ジャーナルやデータベース等の電子媒体の資料まで広げ,その利用権限なども含めて,包括的に管理する必要があると指摘されている。そして,複雑化・肥大化した現状のシステムの問題点を踏まえて,再構築の方法を提案している。

 続いて,「管理からサービスへ」と題し,図書館資料の物流「管理」からユーザへの「サービス」提供へと志向を転換する必要があると指摘している。このような視点の転換にあたっては,Web 2.0の考え方や手法である「集合知の活用」や「ユーザの参加の重視」が示唆されている(CA1624 参照)。たとえば,OPACが情報発見のツールとなるよう,利用者情報の蓄積・分析などをもとにユーザの関心を予測して提案するようなユーザ支援機能,ユーザが能動的に評価やコメントなどを行う参加型のOPAC,CiNiiやGoogle Scholar,Amazonなど外部のWebサービスとの連携を目指す開放型のOPAC等,従来の検索文字列とのマッチングだけにとどまらない,多様な機能の提案がなされている。

 そして,このような機能を満たすシステムの開発・運用の手法としてオープンソース化,またパッケージ型からWebサービス型への移行が提案されている。ただし,図書館システムベンダーからは,オープンソース型の開発においては,図書館側の開発体制をいかにして築くかが重要であり,またWebサービス化にあたっては,外部サービスとの連携や,さまざまな面の標準化・共通化が必要であると指摘されている。

 最後に,NACSIS-CAT/ILLシステムの現状を踏まえ,今後の大学図書館を支援する全国的なシステムのあり方が考察されている。全国的なシステムの第一義の目的を「メタデータの提供基盤」に置き,図書・雑誌の所蔵情報だけでなく,電子情報資源のライセンスやリンク,利用統計などの情報も管理できるような仕組みが必要であるとしている。また,サービスの迅速化,共同分担目録業務の省力化のために,一般に流通している情報はより発生源に近いところでメタデータを作成する「川上方式」を基本とすべきであることや,中小規模の大学にとってのホスティングサービスの有効性,利用者のアクセシビリティを考慮したFRBRモデルに基づくメタデータ再構築の可能性も指摘されている。

 本報告書では図書館システムの現状に対する危機感から,具体的な機能の提案が目指されており,これをもとにした今後の議論や,具体化の動きがどのように進展していくかが注目される。

Ref:
CA1605
CA1624
CA1629
E448
E566