CA1629 - 図書館員自身の協同で作る図書館システム仕様:日本発のオープンソース図書館システム作成を目指して / 原田隆史

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カレントアウェアネス
No.292 2007年6月20日

 

CA1629

 

図書館員自身の協同で作る図書館システム仕様:日本発のオープンソース図書館システム作成を目指して

 

1. 図書館システムの現状に対する閉塞感

 現在,館種を問わず多くの図書館がパッケージソフトを購入する形で図書館システムを利用している。このようなパッケージソフトの導入によって,中小規模の図書館まで電算化が可能になり,図書館業務が効率化されてきたということは事実である。その反面,図書館全体の予算に占める図書館システムに関わる費用の割合が増大し,また,数年に一度のリプレースの時期以外には図書館システムを変更することが困難であるなどの問題も指摘される(CA1529参照)。長谷川は,大学図書館の電算化担当者に対するフォーカスグループインタビューを行い,電算化担当者の多くが自身の持つ要望と現実の図書館システムに実装されている機能との間に齟齬があると感じていることを明らかにしている(1)

 公共図書館におけるビジネス支援や大学図書館における機関リポジトリ管理など,現在の図書館を取り巻く環境の変化は激しい。また,図書館外に目を向ければ,Web2.0の広がりは急であり,また社会全般においてIT化は著しいスピードで進展している。それにともなって,従来に比較して安価に,かつ利用者の要求にタイミングよく柔軟に対応できるシステム開発がなされるようにと世の中は変わってきている。

 それにもかかわらず,国内の図書館システムをとりまく動きは決して速いとはいえない。世の中のスピードに図書館システムが取り残されているというのは言い過ぎにしても,図書館システムも変化の時期にきているということがいえるだろう。

 時には,新しい図書館システムを考えるシンポジウムが開かれたり,使いやすいOPACを目指したネットワーク上の掲示板などが作られたりすることもある(2)。しかし,その多くは,問題点の確認や「ガス抜き」が行われるだけで,システムを実際に変えていこうという動きには結びついていないように思える。シンポジウムなどの活動も非常に大切なことである。しかし,もう議論だけを行っている時代ではない。議論はあってもなかなか実際の動きには結びつかないという閉塞感を多くの図書館員たちも感じてきていたのではないだろうか。閉塞感を打破できるような新しい活動を期待しつつも「何をしていいのかわからない」「出口の見えない活動に乗り出すほどの時間的余裕がない」などの理由で,現実的に図書館システムを変えていこうという活動は今まで盛り上がりを見せてこなかった。

 

2. オープンソース図書館システムの開発

 近年,オープンソースとして開発されるソフトウェアが増えてきている。オープンソース・ソフトウェアの代表とされるLinuxのようなオペレーティングシステムから,日本医師会が開発したレセプト処理ソフト“ORCA”のような業務用パッケージソフトまで各種の成功例がある。

 オープンソース図書館システムの意義については,本誌でも何度か取り上げられている(CA131615291605参照)。これらの中でも示されているように,オープンソースにすれば全ての問題が解決するということは幻想に近い。しかし,前章で述べたような閉塞感を打ち破るという期待を持てる枠組みであろう。

 ニュージーランドで開発されたKohaをはじめとして,海外ではいくつかのオープンソース図書館システムが開発されている。しかし,これらのシステムは当然ながら日本の環境に対応したものではない。

 実用的なオープンソース図書館システムの開発を行うということは,単に誰かが図書館システムのプログラムを作成し,それを公開すればよいというものではない。システムの維持・管理を行うコミュニティを形成し,活動を続けていくことが不可欠である。

 日本の環境に対応させるためには多くの作業量が予想されることに加えて,日本の図書館員が英語によるディスカッションに慣れているとはいえない状況も考えた場合,海外のオープンソース図書館システムのコミュニティに日本の図書館員も参加して開発協力を行うことは現実的とはいえない。

 今こそ,日本においてオープンソース図書館システム開発のためのコミュニティを形成する活動が求められているといえるだろう。

 

3. 日本発のオープンソース図書館システム

 筆者も参加している“Project Next-L”は,このようなコミュニティの母体となることを目的に,2006 年に始動したプロジェクトである(3)。このプロジェクトは,図書館員自身の意見を集め議論することで,柔軟で使いやすいシステムの詳細な仕様をまとめることをめざしている。また,まとめられた仕様を元にした実用的なオープンソース図書館システムの開発と発展を支援する。日本図書館協会情報システム研究会とも連携をとりながら,活動を続けている。

 実際のオープンソース図書館システムを,どのように開発するかは今後の検討課題であり,海外で開発されたシステムをベースに日本語化するのか,新しく開発するのかなども含めて,まだ確定はしていない。

 しかし,クイン(Peter Quinn)が述べているように,オープンソース・コミュニティ側がビジネスを強く意識していないオープンソース・ソフトウェアは現実的ではない(4)。Project Next-L でも単に理想を追い求めるのではなく,短期的に実現可能な処方箋を提示する必要があろう。

 現在の図書館をとりまく財政状況は厳しく,日本医師会が作成費用を負担したORCAと同様の手法は図書館システムでは困難であろう。また,多額の開発費を考えれば,オープンソースによる図書館システムの開発には二の足をふむ企業が多いことが予想される。したがって,Project Next-L が目指すようなオープンソース図書館システムを実現するためには,図書館システムの導入館にとって大きなメリットがあり,同時にオープンソース・ソフトウェア開発の初期の段階で発生する開発コストの低減させる仕組みを考える必要があろう。

 このような仕組みは困難なように思われるが,実現不可能なものではない。新しいシステムを開発する場合,プログラミングのためのコストが必要であることは当然であるが,それ以外にも「システムの要求分析」「仕様の決定と記述」「ドキュメントの整備」「開発したシステムのテスト」「販売のための広報活動」「ソフトウェア利用者を対象としたトレーニングやサポート」など多くの費用が必要である。システム開発に占める費用の割合は,これらプログラミング以外にかかる経費の方が大きく,プログラミング自体のコストは全体の経費の10〜20%程度ともいわれる(5)。これらのプログラミング以外の活動を図書館に関わる人々の協力で実現できれば,開発コストを劇的に下げることも可能となろう。

 現実問題として,システムの要求分析や仕様の検討は,図書館員自身が日頃の活動の中で知識として蓄えたり考えたりしていることでもあり,協力しあうことは十分に可能であろう。まずは,多くの図書館員が自分の要求仕様を出し合い,「多くの図書館の総意をまとめる形で」,かつ「開発者にわかる形で」記述することがその近道と考えられる。

 開発者にわかる形で仕様をまとめるためのツールとして,Project Next-LのウェブWeb ページではUML(Unified Modeling Language)で設計書を作成することがうたわれている。ただし,これは,UMLが持つ(とされる)開発者と利用者の双方が理解できるという特徴に期待してのものであって,UMLの利用に固執するものではない。重要なことは,図書館員または技術者のいずれかにのみわかりやすいというものではなく,図書館員にも,担当する技術者にもわかるという道を探っていくことにある。

 実際に,2007年3月に行われたキックオフ・ミーティングでは,UMLが前面に出ることで図書館員が書き込みにくくなることへの懸念,各業務のシナリオを優先して作成することが妥当ではないかなどの意見も出されており,現在,それに沿った手法の変更が模索されている。

 オープンソース・ソフトウェア成功の鍵は,そのソフトウェアを開発し,維持していこうとするコミュニティにかかっているといっても過言ではない。また,このように図書館員自身が開発の設計や仕様の策定などに関わることは,図書館システム開発の主導権を図書館関係者自身の手に取り戻すということでもある。Project Next-L の小さな活動が,多くの図書館員の方々の協力を得て大きな成果を生み出す日が来ることを信じたい。

慶應義塾大学:原田隆史(はらだ たかし)

 

(1) 長谷川豊祐.“ フォーカス・グループ・インタビューによる大学図書館業務電算化の構造解明”. 2006 年度三田図書館・情報学会研究大会研究論文集. 三田図書館・情報学会編. 東京. 2006-11, 三田図書館・情報学会. 2006, p.17-20. (オンライン版), 入手先 < http://wwwsoc.nii.ac.jp/mslis/am2006yoko/05_hasegawa.pdf >, (参照 2006-04-30).

(2) たとえば,「大学図書館問題研究会第37回全国大会(in さいたま)」においては図書館システムに関するラウンドテーブルや課題別分科会が開催されている。また後者の例としては,SNS“mixi ”上のコミュニティ「OPACを作ろう」などがある。

(3) Project Next-L. (オンライン版), 入手先 < http://www.next-l.jp >, (参照 2007-05-14).

(4) Matthew Overington et al. and Steven Deare(ZDNet Australia). “オープンソースの普及を妨げているのは「サンダル」と「ポニーテール」?”. CNET Japan.(オンライン版). 入手先 < http://japan.cnet.com/news/ent/story/0,2000056022,20099628,00.htm >, (参照 2007-04-30).

(5) ビースラッシュ株式会社. メッセージ.(オンライン版). 入手先 < http://www.bslash.co.jp/message/index.html >, (参照 2007-05-30).

 


原田隆史. 図書館員自身の協同で作る図書館システム仕様:日本発のオープンソース図書館システム作成を目指して. カレントアウェアネス. (292), 2007, p.4-6.
http://current.ndl.go.jp/ca1629