PDFファイルはこちら
カレントアウェアネス
No.281 2004.09.20
CA1529
図書館システムとオープンソースの利用
2000年1月,ニュージーランドのHorowhenua Library TrustでKohaの運用が開始された。オープンソースによる図書館システムが幕を開けた瞬間である。
1. オープンソース・ソフトウェア
オープンソース・ソフトウェアは,自由な利用・修正・複製・再配布を認めた上で,プログラムのソースコードを公開しているソフトウェアのことである。
多くの場合,無償または無償に近い形態で提供が行われる。世界中の有志がインターネット上で共同作業することで,世に良質なソフトウェアが提供されることになる。インターネットは,伝統的に多くのオープンソース・ソフトウェアによって発展してきた。その流れは確実に図書館にも押し寄せている(CA1316参照)。
2. オープンソースの図書館システム
Koha以降,PhpMyLibrary,Obiblio,LearningAccess ILS,Emilda,Avantiなど,様々なオープンソースの図書館システムが開発されてきた。
これらは実際に図書館で使われているシステムであり,現在も継続して開発が行われている。システムの機能としては,図書館システムの基本となるOPAC,目録管理機能,貸出機能を提供しているシステムが多い。
画面はWWWブラウザを使用するものが多い。書誌フォーマットにはMARCを採用し,一部のシステムではZ39.50を利用したオンラインの書誌登録を可能にしている。
システムが開発された場所はニュージーランド,フィンランド,米国,フィリピンなど多岐にわたっているが,現在はインターネットを使い世界中から共同で開発が行われている。システムの情報は個々のプロジェクトのサイトに掲載されるほか,図書館関係のオープンソース・ソフトウェアを紹介するoss4libのサイトで知ることができる。
以下ではシステムの例として,いずれも図書館のハウスキーピングを扱うシステムでありながら対照的な特徴を持つKohaとAvantiを紹介する。
Kohaは,2000年にHorowhenua Library TrustのためにKatipo Communications社が開発したシステムで,完成後,そのプログラムがオープンソースとして公開された。
Kohaはオープンソースの基盤の上に構築されたシステムである。プログラムはPerlで記述され,代表的な基本ソフトウェア(OS)であるLinux上で動作する。WWWサーバーにはインターネット上で最もシェアの大きいApacheを,データベース管理ソフトにはMySQLを採用している。このように既存のソフトウェアを上手に利用することで,Kohaは短期間でシステムを構築することができた。この手法は,多くのオープンソースの図書館システムに引き継がれている。
Kohaはその後,ニュージーランド国内で広く使われるようになり,現在はフランス語,ポルトガル語,中国語など,各国語に対応したバージョンが世界中で利用されている。
Avantiは,シュルムフ(Peter Schlumpf)を中心に1998年から開発が進められているシステムである。
Avantiの設計思想は,Kohaなどのシステムと大きく異なる。Avantiは,データベースやWWWサーバーを含むシステム全体をJavaで記述している。その結果,Javaが動作する数多くの環境で動作することができ,MySQLやApacheなどをUNIX上で設定する知識を不要にした。また,Z39.50やMARCなどを外部のモジュールで実現している。その結果,システムの根幹が世の中の標準の変化に縛られることがなく,将来の拡張を見据えたシステム構成にすることができた。
3. オープンソース・システムの魅力と今後の可能性
図書館システムは個別システムの時代からパッケージシステムの時代に進んできた。現在はオープンソース・システムが大きな可能性を秘めている。
下表に,商用パッケージシステムとオープンソース・システムの比較を示した。
商用 | オープンソース | |
機能 | 多い,複雑 | 少ない,シンプル |
評価 | 難しい | 容易(インストールして比較可能) |
導入費用 | 高い | 安い |
改良の速度 | 遅い | 速い |
サポート | 固定,高い | 選択肢多い,費用はさまざま |
商用の図書館システムは,機能が多く複雑になり,全体を理解することが難しくなったという指摘がある。導入費用は高価であり,導入前に複数のシステムを使いながら比較することは難しい。改良の速度は遅く,ユーザーに機能の決定権はない。運用後のサポートは,システムの提供ベンダーに依頼することになり選択肢がない。
オープンソースの図書館システムにはこのような制約がない。システムはシンプルで理解しやすく,安価に導入できる。自由にインストールして評価でき,改良の速度は迅速である。運用後のサポートは,自前で行ってもよいし,好みのベンダーに依頼することもできる。
現在,オープンソースの図書館システムは発展途上である。本稿では図書館システムとしてハウスキーピングを担当するシステムを取り上げたが,それ以外にも,ポータルや学術情報リポジトリを実現するシステムなど,図書館に関わるオープンソース・システムは確実な広がりを見せている。今後はオープン性を活かしてこのようなシステムと連携することにより,発展が停滞している商用システムに代り,一気に利用が加速する可能性がある。
世界的に運用が進められているオープンソースの図書館システムだが,今後,日本国内に浸透するためには何が必要だろうか。システム面では,日本に合わせた調整が必要である。日本語のメニュー,日本の書誌フォーマット/書誌ユーティリティへの対応をはじめ,表記の読みや配列を含めた日本語データの扱いを考慮する必要がある。運用面では,導入設定や運用サポートを行うベンダーの出現,海外との連携を含む国内のユーザーコミュニティの形成が必要になる。
オープンソースは,開発者とユーザーが世界規模で共同して作りあげる新しいシステムの開発形態である。日本でも,オープンソース・システムの利用を進めつつ,世界的な議論に参加することで,利用と貢献をバランスよく進めて行くことが重要になる。今後の展開に期待したい。
一橋大学総合情報処理センター:兼宗 進(かねむね すすむ)
Ref.
Avanti MicroLCS. (online), available from < http://home.earthlink.net/~schlumpf/avanti/ >, (accessed 2004-07-09).
Koha. (online), available from < http://koha.org/ >, (accessed 2004-07-09).
Breeding, Marshall. An Update on Open Source ILS. InformationToday. 19(9), 2002. (online), available from < http://www.infotoday.com/it/oct02/breeding.htm >, (accessed 2004-07-09).
oss4lib: Open Source Systems for Libraries. (online), available from < http://www.oss4lib.org/ >, (accessed 2004-07-09).
Eyler, Pat. Koha: a Gift to Libraries from New Zealand. LINUX Journal. (106), 2003, 58-60.
兼宗進. 図書館システムとオープンソースの利用. カレントアウェアネス. 2004, (281), p.2-3.
http://current.ndl.go.jp/ca1529