カレントアウェアネス
No.248 2000.04.20
CA1316
オープンソース・ソフトウェアと図書館
1991年にフィンランドの一学生,トーバルズ(Linus Torvalds)が開発を始めた基本ソフト(OS),Linuxが,現在,オープンソースの動きに弾みをつけている。Apple社がサーバ用OSの一部をオープンソースとして提供したり,Microsoft社もサーバ用OSのオープンソース化の検討をほのめかすなど,コンピュータ業界に新たな潮流を生み出している。
一般に,コンピュータ・プログラムは,まずプログラム言語を使って書かれる。これはもちろん,他の人でも一定の訓練を受けていれば理解しうる,言い換えればそのプログラムが総体としてどのような動作を行うのかを知りうるもので,この形式をソースコードと呼ぶ。コンピュータは,ソースコードのままでは受け付けないので,プログラムを実行するには,コンピュータが読めるバイナリコード(実行ファイル)に変換する必要がある。
ソースコードには,そのプログラムのノウハウが全て書かれているので,一般に商業用ソフトウェアはバイナリコードだけで提供され,ソースコードは公開されていない。そのため,そういったソフトウェアの修正や機能の追加は,もっぱらメーカーの開発者に委ねられることになり,ユーザーの希望が必ず取り入れられるとは限らない。また,商業用ソフトウェアの使用許諾契約には,たいていバックアップの目的以外のコピーや,再配布を禁止する旨の条項が置かれている。市場が少数の企業により寡占状態にあれば,ソフトウェアの価格も,企業側が主導権を持って設定できる。
これに対し,オープンソース・ソフトウェアとは,自由な利用・修正・複製・再配布を認めた上で,ソースコードを公開しているソフトウェアのことである。多くの場合,無料か,それに近い価格で提供されている。一定の訓練を受けた人は,それを自分のために使いやすく修正したり,不具合を発見して取り除くことができる。
言葉を換えれば,商業用ソフトウェアでは,開発者とユーザーの関係が固定的であるのに対し,オープンソース・ソフトウェアでは,誰もがその開発に参加することが可能となる。インターネットの出現によって,国際的な情報の共有化が飛躍的に促進された現在,より多くの人がその開発に参加できるようになったことで,信頼性の高いソフトウェアが,驚くほど迅速に開発されることが実証されている。
図書館界には,この手法はまだ浸透してはいないようだが,アメリカではオープンソース・ソフトウェアを利用したプロジェクトがいくつか立ち上げられている。イエール大学医学図書館のサイトにあるoss4lib(open source systems for libraries)には,現在29のプロジェクトが紹介されている。
例えばオハイオ州立大学のProsperoは,RLG(Research Libraries Group)のドキュメントデリバリーシステムArielを補完するシステムで,ArielのTIF形式ファイルを,Web上でアクセスできるPDF形式ファイルに変換するものである。昨年暮までに17ヶ国,220以上の機関によりダウンロードされている。
またイエール大学のjake(Jointly Administered Knowledge Environment)は,電子ジャーナルやフルテキストデータベースなどの電子的資源と,それらの相互関連情報データベース作成の試みである。
現在の図書館のシステムは,市場規模が小さいことから,アップグレードに伴う諸々のコストが非常に大きくなるので,非常に時代遅れのものになっている。また,十分な標準化がなされていないせいで,個々の図書館により,システムがまちまちなものになっている。図書館のシステムにオープンソース・ソフトウェアを導入すれば,館種や規模を問わず,開発のためのコストは小さくて済む。市場規模が小さいことも,ソースコードの共有化にとっては逆にメリットとなる。
また,図書館員はオープンソースによるメリットを享受するだけでなく,オープンソースを支える「コミュニティ」に対し貢献することもできる。図書館員の持っている,情報資源をうまく活用するための技術は,コミュニティに必要とされているものである。この過程の中で,図書館員としての倫理や訓練が,情報活動において不可欠なものであることを示せるかもしれない。同時に,これまで図書館界で生み出された情報ツールを,他産業のシステムにも応用することができる可能性もある。
jakeプロジェクトの中心的人物,イエール大学のチャドノフ(Daniel Chudnov)氏は,図書館とオープンソースの関わりについて,「オープンソース・ソフトウェアの考え方や文化が成熟を続けているのに対し,図書館員はその文化の形成に大きな役割を果たしうる可能性からあえて目をそらしているように見える」として,積極的な取り組みを呼びかけている。
オープンソースの手法を採用すれば必ずうまく行くという保証はないし,今のところサポート体制も確実なものとは言えない。けれども,オープンソースの理論は,情報に対する自由なアクセスを保障する,という図書館の理念と相通じるものがあるので,今後,図書館界への導入も本格化して行くものと思われる。
三浦 修(みうらおさむ)
Ref: Raymond, Eric S. 山形浩生訳・解説 伽藍とバザール 光芒社 1999
川崎和哉編著 オープンソース・ワールド 翔泳社 1999
Chudnov, Daniel. Open source software: the future of library systems? Libr J 124 (13) 40-43, 1999
oss4lib [http://info.med.yale.edu/library/oss4lib] (last access 2000. 3. 23)
Ariel [http://www.rlg.org/ariel/] (last access 2000. 3. 23)
prospero [http://bones.med.ohiostate.edu/prospero/] (last access 2000. 3. 23)
jake [http://jake.med.yale.edu/] (last access 2000. 3. 23)