CA1333 – eLib―英国のデジタル図書館プログラム― / 古賀香織

カレントアウェアネス
No.251 2000.07.20


CA1333

eLib―英国のデジタル図書館プログラム―

英国では,高等教育基金合同図書館検討グループ(Joint Funding Councils Libraries Review Group)が1993年12月「フォレット・レポート(Follet Report)」を出し,学生数の急増や世界規模での学術情報の増大に対応する図書館のあり方について提言した。レポートの結論の一つは,将来の効果的な図書館サービスを創り出すには,情報技術(IT)の活用が必須である,ということである。この勧告に基づき,情報システム合同委員会(Joint Information Systems Committee: JISC)は,1994年に研究開発プログラムeLib(Electoronic Libraries Programme)を創設し,デジタル図書館の形成に向けて,さまざまなプロジェクトへの助成をはじめた。eLibの最大の目的は,情報技術(IT)を利用して,高等教育機関における知識の蓄積・利用方法を変えることである。

eLibは1995年に第1期41プロジェクトでスタートし,翌96年には第2期の19プロジェクトが始まった。プロジェクトは次のような7分野に渡っている。電子出版(電子ジャーナルなど17プロジェクト)・ネットワーク情報源へのアクセス(10プロジェクト)・ドキュメントデリバリー(5プロジェクト)・訓練と意識の向上(7プロジェクト)・デジタル化(5プロジェクト)・研究に対する支援(3プロジェクト)・オンデマンド出版(12プロジェクト)。

さらに,1997年には第3期として次の4分野についてプロジェクトが着手された。ハイブリッド図書館(5プロジェクト)・広範囲な情報源の組織化(4プロジェクト)・電子的保存(1プロジェクト)・初期eLibの成果の実用化(初期18プロジェクト+2つの新規プロジェクト)。

このうち,「ハイブリッド図書館」は,エンドユーザが共通のインタフェースで,電子的情報源にも伝統的情報源にもアクセスできるようにすることを目的としている。また,「広範囲な情報源の組織化」では,英国の高等教育機関に散在する膨大な学術情報源の仮想総合目録の形成をめざしている。

eLibと同様の計画として,米国のDLI(Digital Libraries Initiative)とEUのテレマティーク計画(Telematics for Libraries Programme)がある。この両者をeLibと比較すると,DLIは図書館現場とは離れたコンピュータ科学研究プログラムであるのに対し,eLibは研究よりむしろ図書館現場への応用(開発)として性格付けられている。一方,EUのものは,eLibと重なり合う部分もあるが,市場に関連した問題を扱っている点などが異なっている。

eLibは2000年8月をもっていったん終了するが,JISCは全米科学財団(NSF)との共同プロジェクトなど,他にいくつものデジタル図書館関連プロジェクトを進めており,eLibの終了がデジタル図書館関係の研究開発への助成の減少を意味することではなさそうである。実際,第1期および第2期の評価を担当したコンサルタント会社のESYS社は,「目標のほとんどを達成し,資金に見合うだけの成果をあげた」として,引き続き新たなデジタル図書館プログラムに着手すべきことを勧告している。米国のDLIなどもそうだが,こうした政策試行的な研究開発においては,適切な計画の下に効果的な助成を行うことの有効性が示されているといえるだろう。

古賀 香織(こがかおり)

Ref: Stubley, Peter. An overview of eLib. Inf Manag Rep 1999. 11; 1999. 12
eLib: Electronic Libraries Programme [http://www.ukoln.ac.uk/services/elib/] (last access 2000.1.7)
尾城孝一 英国の大学図書館における電子的情報サービスの進展 大学図書館研究(52)36-51,1997