カレントアウェアネス
No.263 2001.07.20
CA1402
電子ジャーナル時代の図書館員の役割
近年,電子ジャーナルが新しい情報資源として注目されている。2000年春時点の調査によれば,科学技術・医学分野だけで4,000タイトルを超える電子ジャーナルが利用可能だという。多くの出版社が電子ジャーナル関係のサービスに取り組んでおり,国内の多くの大学図書館でも電子ジャーナルの導入・提供を行っている。このような状況のなかで,図書館員にはどのような役割が求められてくるのだろうか。
英国では,SuperJournalというプロジェクトにおいて,電子ジャーナルをめぐる図書館員の意識や行動について調査が行われた。このプロジェクトは電子ジャーナルを成功させる要素についての調査を目的としたもので,高等教育資金供給協議会(Higher Education Funding Council)の統合情報システム委員会(Joint Information System Committee)の資金により,eLib(Electronic Libraries Programme, CA1333参照)の一環として行われた。プロジェクトに参加した出版社は,四つの主題領域にグループ分けされた49の学術雑誌を無料で提供し,それを13の大学図書館がテスト用のサイト上で利用した。
プロジェクトが開始された1997年2月から1998年11月までの期間,図書館員によるサイト利用の状況(ログ)が記録された。また,プロジェクトの終盤に開催された三つのワークショップにおける図書館員の議論の記録,図書館員に対する面接調査,質問紙調査なども行われた。これらを分析したところ,次のような結果が導かれた。
まず,図書館員は電子ジャーナルの提供者としての自らの役割をどのように認識しているかについて。電子ジャーナルの収集に関しては,情報の取捨選択の主体としての役割,出版社と交渉する役割,利用者にとって適切な電子ジャーナルの入手可能性を調査する役割などが挙げられていた。ただし,質問紙調査においては,取捨選択の役割はそれほど支持されていなかった。電子ジャーナルの利用促進に関しては,面接調査では期待されたほどには言及されず,質問紙調査では3割がこの役割を強く支持した。また利用者教育については,図書館員の重要な役割と考えられており,質問紙調査では5割がこの役割を強く支持している。組織化の役割も重要だと考えられており,質問紙回答者の6割がOPACで電子ジャーナルのためのヘルプ画面を設けるべき,という意見に強く賛成し,4割が利用者のニーズや専門分野に沿って電子ジャーナルを組織化することに強く賛成している。利用者へのサポートについては,必要性が増大したことが指摘されているものの,サービスそのものがわかりやすいものであるべき,プロバイダが援助や指導を担当するべき,などのコメントもあった。代行検索の役割についてはそれほど支持されなかった。なお,専門分野別の利用者サポートや,オリジナルな研究成果の出版・配布,電子ジャーナルの保存などはあまり支持されなかった。
次に,図書館員の実際の行動は,自らが認識している役割と一致しているかについてであるが,SuperJournalは実験プロジェクトであるので,収集に関する活動などは確かめることができなかった。利用促進に関していえば,13の大学図書館がすべて,それぞれプロジェクトの異なる段階で広報活動を行っている。広報の手段として使用されたのは,電子メールによる未利用者への呼びかけ,ポスターの掲示,ウェブサイトでの広報やリンク,ニュースレターへの記事掲載などである。利用者教育に関しては,必要と考えられているにもかかわらず,定期的に指導を行っているのは1館だけで,ほかには2館が不定期に行っているのみである。組織化については,他の電子ジャーナルコレクションとともにSuperJournalを提供したところ(10館)のほか,別途提供したところ(2館)やまったく独立させて提供していたところ(1館)があった。また,利用者へのサポートについては,専門分野に関するサポートという点からすれば,組織的な手段としては確立していなかった。
また,図書館員自身によるSuperJournalの利用は,その提供者としての図書館員の役割とどのような関係があるか,ということについては,質問紙調査によれば,「サービスについて利用者に助言をするため」(88%),「電子ジャーナルの提供にあたって自らの経験を増やすため」(53%),「検索機能や特徴を比較するため」(22%)などと回答している。「特定分野の出版物の情報についていきたい」と回答したのは8%に過ぎない。図書館員の行動を検証してみると,利用者(エンドユーザ)と比べ,利用するアプリケーションの種類が広く,サーチエンジンの利用頻度が多い。多種多様な分野への関心,検索機能への関心が伺われる。また,図書館員の利用する領域は利用者のそれとかなり異なっている。これらのことから,図書館員の実際の行動は,電子ジャーナルの内容による選択や代行検索といった専門的な利用者へのサポートというよりも,ごく一般的なサポートの役割を担っていると考えられる。
最後に,図書館員の行動は利用者に対して何らかの影響をもたらしているかについてであるが,図書館員の活動と利用者の利用状況などを考え合わせると,組織化の方法や利用者教育が利用状況に影響を及ぼしている可能性が伺える。
調査に見られるように,電子ジャーナルの登場にともない,図書館員の役割が変化してきていること,あるいは新たな役割を担う必要があることが意識されている。今後,電子ジャーナルのいっそうの進展によって,図書館員は,さらなる対応を求められることになるのだろう。
東北大学附属図書館:阪脇 孝子(さかわきたかこ)
Ref: Cliff, M. et al. Librarians in the delivery of electronic journals: roles revisited. J Librariansh Inf Sci 32(3) 117-134, 2000
時実象一 電子ジャーナルの現状と動向 情報管理 43 391-410,2000
SuperJournal Project [http://www.superjournal.ac.uk/sj/] (last access 2001. 5. 28)