カレントアウェアネス
No.269 2002.01.20
CA1452
図書館情報学分野における電子ジャーナルの現況
近年の電子ジャーナルの目ざましい発展ぶりは,国内国外を問わず幾度も指摘されているところである。特に科学技術分野では,増大する電子ジャーナルの役割が注目されている。むろん,図書館情報学分野も例外ではなく,電子ジャーナルを媒体に出版される文献の数は年々増加している。例えば,情報学関係文献を調査した研究によれば,1995年から2000年までの5年間で,その数はおよそ10倍に増加しているという。
電子ジャーナルの状況を数値的に追うにあたり,まず問題となるのはその定義であろう。電子ジャーナル(あるいはデジタルジャーナル)という用語は,いまだ曖昧なものであり,何をもって電子ジャーナルと認めるかは,人によって異なっている。例えば,ヤッチョ(Pter Jacso)氏は,冊子体を電子化しただけのもの,すなわち単なる冊子体の代用物は電子ジャーナルから除いている。彼が提示した「電子ジャーナル」としての条件は,(1)電子媒体によってのみ入手が可能であること,(2)誰でも,どこからでも入手可能であること,そして,(3)無料であること,である。そのような厳しい制限を設けても,図書館情報学分野には,Ariadne,D-Lib Magazine,First Monday,Information Research,Issues in Science & Technology Librarianship,Journal of Electronic Publishing,LIBRES,PACS-R,Journal of Information,Law & Technology,Journal of Digital Informationなど,質の高い電子ジャーナルが20以上存在する。
それらの電子ジャーナルをカバーしている代表的なデータベースとして,ERIC,INSPEC,Information Science Abstracts,LISA,Library Literature & Information Science,PAISが挙げられる。図書館情報学分野をカバーしていても,電子ジャーナルは含まないデータベースも存在するが,ここに挙げた六つのデータベースは,多数の電子ジャーナルの文献を収録しているものである。それらのデータベースを最もたくさん提供しているオンラインサービスはDialogとSilverPlatterであり,OCLCがそれに続く。
一方,日本国内に目を転じてみると,科学技術振興事業団のJ-STAGE,そして国立情報学研究所のNACSIS-ELSが,電子ジャーナル提供サービスを積極的に推進している。図書館情報学分野では,『情報管理』などがJ-STAGE上で,『情報処理』『情報の科学と技術』『日本図書館情報学会誌』『レコード・マネージメント』などがNACSIS-ELS上で提供されている。ただし,これらの雑誌は,単なる冊子体の電子版であったり,有料であったりするものばかりであり,日本の図書館情報学分野では,ヤッチョ氏のいう意味での「電子ジャーナル」は,まだ存在していない。
東京大学大学院教育学研究科:芳鐘 冬樹(よしかねふゆき)
Ref: Hawkins, D. T. Bibliometrics of electronic journals in information science. Inf Res 7(1) [http://informationr.net/ir/7-1/paper120.html] (last access 2001. 11. 27)
Jacso, P. Treatment of digital journals in library and information science databases. Online 25(4) 46-52, 2001
時実象一 電子ジャーナルの現状と動向 情報管理 43(5) 391-410,2000