CA1451 – 図書館資料の盗難 / 竹内ひとみ

カレントアウェアネス
No.269 2002.01.20


CA1451

図書館資料の盗難

少し前に「男の子がバレエ・ダンサーを夢見てはいけないの?」で話題になった英国映画「リトル・ダンサー」のなかで,主人公の少年が,古典的ともいえる女性図書館員に「その本は子供には貸出しできません」と言われ,ちょっとしたスキに分厚い写真つきのバレエの本を自分の服に隠して盗むシーンがあった。図書館に働く者としては,「うっ」と思う場面である。図書館において資料の盗難は,古くて新しい問題である。しかし,その実態を数字で掴んでいる図書館はそれほど多くはない。この事情は洋の東西を問わないようである。

最近のPublic Library Journal誌に「盗難:知らずにいることは幸福なことか?」と題して,英国で行われた公共図書館の盗難に関する調査結果が掲載された。英国ではこの調査以前にも1986年と1992年に調査が行われているが,今回の調査対象は,本だけでなく,非図書資料(CD,カセット,レコード,DVD,CD-ROM,ゲームなど)や資料以外の図書館の機器や設備を含んでいる。調査は2段階で行われ,第1段階は,英国の公共図書館の3分の2以上に対する質問紙調査,第2段階は,その中から選出した12館を「主要な大都市の図書館」と「非都市圏の図書館」という二つのグループに分けて行ったインタビュー方式のケーススタディである。

質問紙調査には,様々な地域の図書館50%以上から回答が寄せられた。調査結果の要点を紹介しよう。
・すべての図書館で,高価な非図書資料であるトークブックやCDを貸出していた。また,93%でビデオ,45%でDVD,25%でゲームソフトの貸出しが行われていた。
・盗難資料の統計を取っていた図書館は20%であった。1986年に行われた調査では60%,1992年の調査でも同レベルの結果で,過去10年間にこの数字が急激に下がっていることがわかる。盗難についての正確な数値をあげることが難しいため,継続的にデータを取ることは困難だという。
・66%の図書館で機器がなくなっていた。そのうちの16館ではコンピュータと周辺機器がなくなった。その他,テーブル,時計,電子レンジ,オーブン,芝生なども盗まれた。しかし,もちろん最も大量なのは本である。
・職員の認識としては,過去5年間,明らかに盗難は増加している。

ケーススタディでの例として,比較的失業率の高い貧しい地域で,2万点の資料(ビデオ,CD,トークブックを含む)を有する新館がオープンしたが,開館後半年で,ノンフィクションの19%,地域関係の23%,福祉関係の48%が盗まれたと報告されている。事態は深刻である。

今後の対策と考え方については,次のように考えられている。まず,あらゆる人々へのサービス提供を重視するのか,それともセキュリティか,という問題に対して,図書館員は概して資料のセキュリティを強化するよりはサービスを充実することを望んでいる。図書館はあるレベルまでの盗難を許容する必要があるのではないか,というわけである。

盗難対策として大半の図書館管理者はブックディテクションは有効であると考えている。誰も盗難を根絶することができると思ってはいないが,ここまで盗難を減少できたのは大きな進歩だと考えている。監視カメラを導入した館もある。1998年から2000年までの間に95件の盗難があった図書館で,2000年4月に監視カメラを設置したところ,その後3か月間での盗難事件は6件となった。将来的には,RF-ID技術(ICチップ(タグ)などを使い,無線通信技術によって非接触の認識を行う技術)が新しい図書館のセキュリティシステムとして期待されている。

さて,今回の調査からは,図書館は本だけではなくCDなどの非図書資料,コンピュータなど高価な設備・器材を揃えるようになり,よりいっそうセキュリティが重要となっていることがわかる。また,盗難についての方針やガイドラインを考えることも重要だと指摘されている。そのためには,どのような資料がどのくらい盗まれているか,などの実態調査が重要となる。さらに,図書館のレイアウトが盗難しやすいものになっていないか,セキュリティ対策を講じているか,盗難予防のための研修と警戒を行っているか,パブリシティや問題提起と罰則についての利用者教育などを実施しているか,といった事柄にも留意する必要がある。

また,ブックディテクションや監視カメラ,またRF-IDなど,時代とともにより進歩した便利な盗難対策技術が発明され,図書館に導入されているが,これらの導入にあたっては,費用対効果といった点でも,利用者のプライバシーやその理解といった点でも,図書館側の慎重で細かな対応が求められている。

図書館に資料がある限り,遠く古代エジプトから図書館の盗難はなくなることはなかった。しかし,今後,図書館が地域の文化・情報センターとしての役割を果たしていくためには,図書館のいっそうの努力と,利用者に対して,啓発活動を含め,理解を求めていく試みとが求められることになろう。

竹内 ひとみ(たけうちひとみ)

Ref: McCree, M. Theft: ignorance is bliss? Public Libr J 16(2) 47-50, 2001
Special Issue, Library crime and security. Libr Arch Secur 8(1/2) 1986
Burrows, J. et al. Theft and Loss from UK Libraries: a National Survey. Home Office Police Research Group, 1992. 56p