CA1390 – デンマークの図書館法改正 / 井田敦彦

カレントアウェアネス
No.261 2001.05.20


CA1390

デンマークの図書館法改正

2000年5月4日,デンマーク議会は図書館法改正案を可決した。デンマークでは図書館法はこまめに改正され,しかもその内容は,わが国の図書館法のように原理原則を記してあるのではなく極めて具体的である。こうした図書館法を中心に,デンマークの図書館は国全体として緊密なネットワークを形成し,国民の知る権利に奉仕してきた。デンマークは他の北欧諸国と同様,インターネットが世界で最も普及している国の一つで,今回の改正はこうした社会の変化に対応することを狙いとしている。主な改正点は次のとおりである。

第一に,新たなメディア形態の到来を見越して図書館資料の範囲を拡大した。これには,CDなどの音楽資料,CD-ROMなどの電子資料のほか,オンラインデータベースやインターネットのような,情報が蓄積されないメディアも含まれる。一方,図書館は,国民がコミュニケーションツールとしてインターネットを利用すること(電子メール,チャット,電子商取引など)を支援するものとはされていない。

第二に,旧法(1993年公布)第6条の規定を削除し,有資格の司書以外にも公共図書館の長になる道を開いた。これは,大きな自治体の場合,館長にはさまざまな専門的能力および管理能力が必要とされると考えたからである。

第三に,国立の図書館および政府の補助を受ける図書館,すなわち,国立図書館,大学図書館およびその他の研究図書館をも図書館法の適用範囲に入れた。これらの図書館は,第一義的には,研究者や学生に対するサービスをその任務とするが,任務に支障のない範囲では,図書館間貸出等を通じて,一般国民に対するサービスをも行うものとした。このことは法律の名称にも表れている。すなわち,従来の「公共図書館法」から「図書館サービス法」へと名称変更され,公共図書館を中心とする総合的,協調的図書館システムの構築を意図していることが明示された。

第四に,図書館が料金を取って特別なサービスを提供する機会を拡大した。従来も延滞の場合やビデオの貸出等での料金徴収は認められていたが,今回新たに,商用ドキュメントデリバリーサービスの利用や,企業に対する特別なサービス,他自治体の住民への貸出サービスなど,通常の資料提供(貸出,館内利用,レファレンスサービスなど)の範囲を超えるものに対しても課金できることになった。ただし,あくまでも図書館の利用は料金無料が原則である。

第五に,違反行為に対する罰則を強化した。資料の延滞料を支払わない利用者に対しては,図書館は一時的な利用停止措置をとることができる。さらに改正法は,図書館が給与の差し押さえを強制執行することを可能にした。なお,この延滞料徴収の背景には,公共物についての他人の権利を不当に侵害することに対するペナルティという考え方がある。

法案の可決直後,ニールセン文化大臣は次のように述べている。「図書館は常に,我々の社会と民主主義の発展に主導的な役割を果たしてきた。今我々は,図書館がその役割を演じ続けることを確認した」。情報環境の変化によって社会そのものも大きく変わりつつある今日,情報アクセス機会の平等を最重視するデンマークの考え方は,わが国にも何らかの示唆を与えるのではないか。

井田 敦彦(いだあつひこ)

Ref: Jensen, A. K. Denmark's new library act: possibilities and scope. Scand Publ Libr Q 33 (3) 11-13, 2000
IFLA Section of Public Libraries. Denmark. Country Reports. 2000. 8 [http://www.ifla.org/VII/s8/annual/country.htm] (last access 2001. 3. 30)
Danish National Library Authority. Act regarding library services. [http://www.bs.dk/lovstof/lov340_english.htm] (last access 2001. 4. 19)
図書館計画施設研究所編 白夜の国の図書館 Part 3 リブリオ出版 1998 207p
長倉美恵子 デンマークの図書館法と図書館図書館をつくり・育てる 21世紀第1回図書館セミナー資料 東京 2001-3-6 図書館の学校 2001 18p