カレントアウェアネス
No.261 2001.05.20
CA1389
民間企業との新しい委託関係―英国公共図書館のIT対応策―
図書館とIT(情報技術)との関係が深まるにつれ,図書館におけるIT関連の業務もまた,多様かつ複雑になりつつある。
そのような状況に対して,英国のロンドン特別区の一つブレントである試みが行われている。図書館に関するIT関連業務を,ファシリティマネジメント(施設管理)契約として民間企業に包括的に外部委託したのだ(施設管理というと,建物の管理などが思い浮かぶが,ここでいうファシリティマネジメントは,執務環境などを含めた広がりを持った概念である)。
ブレントの包括的な業務委託では,1999年5月から9月にかけて入札が実施され,その後の協議や法的検討を経て,2000年5月にepixtech社(旧Ameritech Libray Service社)との間で契約が結ばれた。実際にすべての契約内容が実施に移されたのは同年7月からである。
契約は次のような多岐にわたる内容を含んでいる。
- 事務用ソフトを含むあらゆる情報技術の提供。
- すべての図書館におけるインターネットの一般公開。
- ITについてのあらゆる問題に対する統一的窓口。
- 完全に自動化された移動図書館。
- 図書館・博物館・文書館の統合システム。
- CD-ROMネットワークシステム。
- IT研修施設の運営。
- 電子メールサービスの運用。
- 年間100日のサポートと開発。
- 機器類の維持管理。
- ネットワークとウェブサーバの提供。
- 完全なバックアップと障害からの復旧。
IT問題の窓口を一本化することで,検討や調整にかかる人手と時間が最小限ですむとともに,図書館側はサービスの内容に専念できることになる。委託先企業と共同で様々な問題やサービスの改善に取り組むことができる,というのも,ブレント側の狙いである。
具体的成果としては,既にプログラミング言語Javaを利用したOPACが提供されている(http://brent-webpac.epixtech.co.uk/,2001年3月30日現在)。どの資料が地域内のどの図書館にあって,どういう状態なのか(貸出中,棚にあり,など)がわかるだけではなく,利用者側の情報(今借りている本は何か,期限切れの本はないか,など)を確認できたり,図書館職員に質問(一般的なレファレンスや図書館の業務に関すること)することも可能だ。このOPACのサーバを管理しているのが,ブレント側ではなく,委託先であるepixtech社であることがURLからも伺える。比較的短期間でこのようなサービスを実現できたのは,包括的な委託契約の一つの成果だろう。
それ以外にも,既にリモートLANを利用して分館なみのサービスを提供する移動図書館が実現されているほか,図書館・博物館・文書館の統合システム(注)に向けても準備を進めている。加えて,ネットワーク基盤の整備に向けた検討を進めるなど,ブレント側はこの契約を最大限生かそうとしているようだ。
このような積極的な動きの背後には,英国政府が推進する,People’s Networkプロジェクト(http://www.peoplesnetwork.gov.uk/)の存在がある(CA1212参照)。図書館サービスへのITの活用だけではなく,ネットワーク基盤の整備まで視野に入れたブレントの戦略も,このプロジェクトに沿ったものだ。国レベルの生涯教育の充実を目指した図書館のIT化戦略と,それに対応した積極的な財政措置が,地方公共団体の活発な動きを呼び起こしているという見方もできるだろう。
ブレントでの試みは利点も多いようだが,民間企業との徹底した協議や,その協議を反映しつつ,なおかつ地方公共団体側の利益を守るための契約内容の法的な検討は,容易なことではないと思われる。単なる丸投げではなく,パートナーとして企業との関係を築き上げるためには,法的問題に通じたスタッフや,企業との交渉を行える人材も必要であろう。こうした点でも,ブレントでの試みには学ぶべき点が多いのではないか。今後の展開に注目したい。
大場 利康(おおばとしやす)
(注) ブレント図書館サービスは,12の地域館,移動図書館,宅配サービス,配本所などの図書館サービスのほか,博物館と文書館を所管している。
Ref: Readman, J. Rewriting contractor relationship. Libr Assoc Rec 103(1) 35-36, 2001
epixtech. epixtech and Brent in new FM delivery partnership (Press Release). [http://hsc.amlibs.com/ls/press/2000/9974.asp](last access 2001. 3. 30)
FM推進連絡協議会編 ファシリティマネジメント・ガイドブック 第2版 日刊工業新聞社 1998 460p