カレントアウェアネス
No.269 2002.01.20
CA1450
イリノイ州におけるILL評価プロジェクト
イリノイ州の大規模図書館26館によって,ILLの評価を行うプロジェクトが実施された。プロジェクトでは,州内の図書館間で貸借されている雑誌論文の特徴を把握し,コレクションの利用状況やその費用対効果を明らかにすることを目的として,1996年7月から1997年5月の11ヶ月間の学術雑誌論文の貸借について調査を行った。以下,概要を紹介する。なお,調査は,イリノイ共同コレクション管理プログラム(Illinois Cooperative Collection Management Program: ICCMP)からの補助金によって行われた。ICCMPは,資源共有を目的とするコンソーシアムで,主にイリノイ州の大学図書館が参加している。
調査にあたっては,共同コレクション管理ツール“PILLR(Prism Inter Library Loan Report)”の管理データを利用した。PILLRは,ILL利用データの収集・管理を目的とするOCLCのプロジェクトである。後にOCLC管理統計サービスに発展するこのPILLRにより,タイトルレベルで雑誌論文のILLデータを収集し,分析することができた。
主な調査結果は次のようなものである。
(1)イリノイ州内の複写依頼の50%以上が,大学図書館を中心とする州内の大規模図書館26館で充足できるであろうと予想していたが,実際に26館で57%の依頼に対応できていた。
(2)予想どおり,貸借ともに人文科学や社会科学分野より自然科学分野(LC分類のQ,R,S,T,W)の依頼が多く,こうした分野の雑誌へのアクセスに関する貸借協定の確立が重要であることが判明した。
(3)イリノイ州内で充足できる複写依頼は頻繁に利用されるタイトルであり,州外で充足する依頼は1回しか依頼のないタイトルが多いだろうと予想していたが,調査の結果,よく利用されるタイトルは州内でかなり充足されることが確認された。一方,州外で充足した依頼のうち,11ヶ月間で20回以上依頼のあったタイトルは1%未満(113タイトル)であったが,これらを分析すると,価格では,78%が1,000ドル以下であり,州内で所蔵していたほうが経済的であるとも考えられた。また,54%が,以前は州内で所蔵していたが現在は所蔵していないタイトルであった。購入中止にあたって,州レベルでの利用状況を考慮する必要があることを示している。
今回の調査の結果から,プロジェクトでは,資源共有がイリノイ州内の研究資料の提供に大きな役割を果たしていることが証明された,としている。また,イリノイ州で充足できた依頼の43%が大規模館26館以外によるものであったことで,異なる収集方針を持つ多様な図書館を含む「マルチタイプ」のコンソーシアムによって,予期されないニーズがカバーされることもわかったという。
さらに,今回,ある程度依頼のあるタイトルが少なからず購入中止されていたことが判明したことから,購入中止や新規タイトル購入について州内で必要なタイトルを維持するメカニズムを開発していく必要性が認められた。
また,数のうえでは,実は1回しか依頼のないタイトルへの依頼が最も多かった。こうした「ユニーク」なタイトルは,デジタル化や電子的提供がすぐには行われないと思われ,資源共有の協定を維持することが今後も必要であり,逆に頻繁に依頼されるタイトルについては,フルテキストをネットワーク環境で提供する方法が探られるべきである,と指摘している。
ILLについて,こうした調査を定期的に行えれば,費用対効果の高い資源共有のために,地域内でコアタイトルを維持しながら,図書館が利用者のニーズを予想するのに役立つであろう。こうした試みが広がっていくことが望まれる。
古賀 香織(こがかおり)
Ref: Wiley, L. et al. The state of ILL in the state of IL. Libr Collect Acquis Tech Serv 25(1) 5-20, 2001