CA1449 – 米国法律図書館職員の現状 / 中川かおり

カレントアウェアネス
No.269 2002.01.20


CA1449

米国法律図書館職員の現状

法律図書館とは,法律事務所,行政機関,ロースクール(法科大学院),裁判所,企業の法務部等に設置された,法律や判例についての資料を中心に扱う図書館をいう。こうした図書館で働く職員の仕事は,レファレンス業務を中心としたサービス業としての性格が強い。そのため,職員には法令・判例とその検索法,法律の略称や引用法などの法律関係情報についての専門知識が必要となる。近年は,コンピュータを使い,法令・判例情報を検索することなども法律図書館職員に求められるようになってきている。もちろん,資料の収集・整理や分類などといった一般図書館職員の業務も担う。

こうした幅広い能力を要求される法律図書館職員は,どのように養成されているのであろうか。米国法律図書館協会(AALL)によれば,次のような状況である。

法律図書館職員として働くために必要な学歴の第一は,図書館学修士号(MLS)である。法律図書館職員の募集の多くは,米国図書館協会(ALA)の認定機関でMLSを受けることを要求している。また,実際に法律図書館職員として働いている人の85%がMLSを持っている。

法律図書館のなかには,ロースクールや大規模な法律事務所に設置されるものもある。こうした図書館の職員になるには,MLSに加え,法学博士(JD)または法学士(LLB)を受けていることが条件となることが多い。これらの学位は,ほとんどの場合,米国弁護士協会(ABA)が認定したロースクールで取得する。一方,中小の法律事務所,行政機関,裁判所,企業の法務部に設けられた法律図書館の職員になるためには,JDやLLBは要求されないことが多い。職員採用の要件としてMLSとJD(LLB)の双方が必要となるポストは,法律図書館職員全体の20%程度である。

図書館学修士課程の多くは,昼間課程で,修了に1年かかる。修了に2年かかる課程もあり,その場合は論文および実習が課されることが多い。一方,夜間課程や通信教育により履修できる図書館学修士課程もある。また,JDとMLSを同時に取れる課程を設けている学校もあるが,その多くは修了に4年かかる。

このように,米国では,法律図書館職員の資格要件は明確に定められているが,その実態を明らかにしているのが,ミシガン大学ロースクール外国法・比較法図書館の職員であるタイス(B.A. Tice)氏の調査である。

タイス氏は,1989〜99年の10年間にAALLのWebサイトなどに掲示された求人広告を分析した。それによれば,10年間で法律図書館職員の学歴要件はほとんど変化していない。依然として,MLSのみを要求するポストが大半であり,JDとMLSの双方を要求するポストは,上述のとおり20%程度である。

学歴に比べて,著しい変化を見せたのは,経験の重視である。まず,情報処理についての経験である。法律以外のオンラインデータベースについての経験は,10年前は募集されたポストの16%で要求されていたに過ぎないのに,現在は39%で要求されている。パソコン操作の経験は,10年間で8%から28%に,法律情報についてのコンピュータ検索の経験は19%から39%に,図書館機械化システムについての知識は8%から24%に上昇している。このように,法律図書館の職員は,情報化の進展に対応することをますます期待されるようになってきている。

サービス面での経験も重視されるようになってきている。コミュニケーション技能については,10年前は20%で要求されていたに過ぎないのに,現在では56%も要求されている。「サービス思考」ができることは15%から37%へ上昇し,チームワークをうまく営めることは3%から53%へと上昇している。

タイス氏によれば,制度化された養成システムは,こうした法律図書館を取り巻く環境の変化にうまく対応し,経験と技能を併せ持った有能な人材を法律図書館に送り込んでいるという。ただ,充実した教育を提供する法律図書館職員専門の養成機関が少ないことや,そうした教育を受ける学生が減少傾向にあることに懸念を示している。

法律図書館が,これからも有能な職員を維持していくためには,受身の姿勢であってはならない。受身にならないためにも,法律図書館の職員として働くために必要な知識や技能を養成機関にフィードバックすることで教育内容の充実を図る,図書館学を学ぶ学生に法学の学位がなくても法律図書館に就職できることを周知する,ロースクールにおいて職業選択の一つとして法律図書館職員があることを周知する,法律図書館職員がその地域の養成機関へ赴いて学生をリクルートする,などといった積極的な活動が必要だと言われている。こうした活動が21世紀における法律図書館職員のレベルを保証するということだろう。

中川 かおり(なかがわかおり)

Ref: Tice, B. A. Too many jobs, too few job seekers? Law Libr J 93(1) 71―91, 2001
AALL. Education for a Career in Law Librarianship.http://www.aallnet.org/committee/tfedu/education.html] (last access 2001. 10. 15)
Whisner, M. Choosing Law Librarianship: Thoughts for People Contemplating a Career Move 1999.http://www.llrx.com/features/librarian.htm] (last access 2001. 10. 15)