CA1409 – ISO ILLプロトコルとNACSIS-ILL / 鵜澤和往

カレントアウェアネス
No.264 2001.08.20


CA1409

ISO ILLプロトコルとNACSIS-ILL

ISO ILLプロトコルとは,ISO 10160(Interlibrary Loan Application Service Definition:図書館相互貸借応用のサービス定義)とISO 10161(Interlibrary Loan Application Protocol Specification:図書館相互貸借応用のプロトコル仕様)というILL処理に関する国際規格の総称である。それぞれ1997年の第2版が最新版である。この規格は,異なるILLシステム間の相互接続および相互接続したILLシステム同士による相互貸借・文献複写業務を可能にすることを目的としている。

ISO 10160では,21種類の「サービス」,20種類の「メッセージ」,「状態」および「状態遷移」を定義している。「サービス」とは,ILL処理(例えば,依頼の開始や依頼の受付など)に関する「メッセージ」を交換する機能のことである。「サービス」を実行することでILL処理が進行し,「状態」が遷移する。定義されている「状態」は,依頼機関側が15種類,受付機関側が14種類である。一方,ISO 10161では,ILL処理において送受信されるデータ項目およびデータを送信する際の符号化の方法,システムの動作などを定義している。

ISO ILLプロトコルでは,電子的な配送手段について対応できるようデータ項目を用意しているが,実際の配送方法に関してはいくつかの規格を例示するに留まっている。また,書誌・所在情報および個々の図書館の提供方針(lending policy)の確認方法もこの規格の適用対象外である。

このISO ILLプロトコルの維持・管理は,カナダ国立図書館が行っている。日本では2001年に日本工業規格JIS X0808,JIS X0809として刊行された。

さて,実際のシステムへISO ILLプロトコルを適用するためには,規格だけでは不十分であり,さらに実装に関する具体的な技術的検討が必要である。例えば,ISO ILLプロトコルでは,データの送受信については,「蓄積交換メッセージサービス」と「直接接続モードサービス」の2種類の方法があること,およびそれぞれに参照すべき規格があることを提示している。しかし,どのような技術を使用して接続すべきなのか,また,両方の方式を実装すべきなのか,それともどちらか一方の方式だけを実装すればよいのかについては触れていない。

そこで,スムーズな相互接続に基づく運用を実現するためにIPIG(ISO ILL Protocol Implementors Group)という組織が1995年に設立され,技術面の検討や連絡調整を行っている。先ほど例に挙げたデータの送受信についていえば,蓄積交換メッセージサービスについてはMIME(マルチメディア情報をやりとりするための規格)によって符号化された電子メール,直接接続モードサービスについては特定のポート番号を使用したTCP/IPによる接続というように,より具体的な2種類の方法をIPIGでは提示しており,さらに電子メールによるデータの送受信の実装を必須と定めている。また,個々の図書館の提供方針を確認するための”ILL Policy Directory”の実現についてもIPIGで検討中である。IPIGで検討された技術的事項は,IPIG Profile for the ISO ILL Protocolや,IPIG Guidelines for Implementors of the IPIG Profile等の資料としてまとめられている。IPIGのメンバーは,2000年5月現在34機関であり,OCLC(Online Computer Library Center),RLG(Research Libraries Group),米国国立医学図書館,英国図書館などのほか,わが国から国立情報学研究所(NII)も参加している。

ISO ILLプロトコルに対応したILLシステム同士が相互接続することにより,ILL担当者は,複数のシステムを単一のシステムの画面・端末から利用することが可能となる。その結果,依頼先によって,接続するシステムを使い分けるという操作の煩雑さから解放され,業務の効率化が図られることになる。また,米国では,個々の図書館がISO ILLプロトコル対応のプログラムを用意することによって,いわゆる集中型のILLシステムを経由せずに,図書館同士が直接接続してILL処理を行う動きも現れている。RLGが開発したILL Managerは,そのような機能を持ったプログラムである。将来のILL処理は,このように図書館同士が直接行う「分散型」が主流になるという見方もある。

ところで,わが国では,ILL業務に関するメッセージ交換処理をシステム化したものとしてNIIのNACSIS-ILLがある。現在,ISO ILLプロトコル対応に向けたシステム開発を行っており,2001(平成13)年度には,第一段階として,文献複写業務の対応,その後,第二段階として現物貸借業務の対応を予定している。

NACSIS-ILLは,1992(平成4)年のサービス開始以後,1994(平成6)年に英国図書館文献供給センター(BLDSC),1996(平成8)年に国立国会図書館(NDL)という外部のシステムとの接続を行ってきており,2001(平成13)年3月末までの累積で,BLDSCへは約36,000件,NDLへは約98,000件の利用実績をあげている。これらの外部機関に対してはNACSIS-ILLから依頼する機能を持つだけであったが,ISO ILLプロトコル対応後は,プロトコルに対応した外部システムとの間での受付処理も可能になる。外部機関に対する受付業務の開始は,ISO ILLプロトコル対応によって運用面に生じるNACSIS-ILLシステムの最も大きな変化である。利用料金等の決済処理については,現在,関係機関との調整が行われている。

システム面においては,ISO ILLプロトコル対応後,ILLレコードおよび参加組織レコードに新しいフィールドの変更・追加を行うが,NACSIS-ILLのレコードの「状態」や「状態遷移」に変更はない。さらに今後,それぞれのILLシステムからZ39.50を利用して書誌・所在情報を確認できるようにすること,参加図書館の提供方針を確認する仕組みを当面の運用のために用意することが予定されている。これによって,ISO ILLプロトコル経由でのILL業務の効率化を図ることを考えている。

1999(平成11)年2月の「日米両国におけるドキュメント・デリバリー・サービスの改善に関するラウンドテーブル」において国立大学図書館協議会と北米の日本関係図書館団体である北米日本研究図書館資料調整協議会(North American Coordinating Council on Japanese Library Resources: NCC)との間で形成された合意事項のなかでは,両国の書誌ユーティリティに対して,ISO ILLプロトコルの実装が要請されている。NACSIS-ILLのISO ILLプロトコルへの対応は,国際的な標準プロトコルへ対応することで,海外からの日本の学術情報入手に関する技術的課題の解決および国内外で高まっている国際的な文献提供への要請に応えることを目指している。

国立情報学研究所:鵜澤 和往(うざわかずゆき)

Ref: Interlibrary Loan Application Standards Maintenance Agency [http://www.nlc-bnc.ca/iso/ill/] (last access 2001. 5. 31)
Access & Technology Program/NAILDD Project, Interlibrary Loan Protocol Imple mentors Group (IPIG) [http://www.arl.org/access/naildd/ipig/ipig.shtml] (last access 2001. 5. 31)
IPIG Mailing List Archives [http://lyris.pigasus.com/cgi-bin/lyris.pl?enter=naildd-protocol-l] (last access 2001. 5. 31)
Needleman, M. The international interlibrary loan protocol and related activities. Ser Rev 25(3) 81-85, 1999