カレントアウェアネス
No.264 2001.08.20
CA1408
英国の博物館・文書館・図書館における「学習とアクセスに関する基準」
2001年4月,博物館・文書館・図書館国家評議会(Council for Museums, Archives and Libraries,通称Resource,CA1382参照)は,所管する三つの機関に共通の「学習とアクセスに関する基準」を策定するための計画書を公表した。これは,前年11月からResourceが行った予備調査の成果である。計画書をもとに原案を作成し,2002年4月に最終案を提示する予定である。
計画書ではまず,「学習(learning)」に関する基準の必要性が述べられている。博物館・文書館・図書館は人々に学習経験を与えることのできる機関であるという位置づけのもとに,国民の生涯学習を推進するため,学習機会(場所や教材としての文化資源などを含む)への「アクセス」を保障することが求められている。特に,情報通信技術による変化への対応は重要な課題とされている。
英国政府の行政評価重視の政策を受けて,現在は三つの機関がそれぞれに基準あるいはそれに類するものを持っている。図書館については,2001年度から基本的なサービスに関する基準(Comprehensive, Efficient and Modern Public Libraries: Standards and Assessment)が設けられた(CA1383参照)。博物館は,1988年に始まった博物館登録制度(Museum Registration:一定基準を満たした登録機関が公的資金を得る制度で,現在1,900以上の機関が参加)が「最低基準」の役割を果たしている。文書館は,文書資料へのアクセスに関する基準(Standards for Access to Archives)が,最近定められたところである。
そして,「学習」に関しては共通の課題が多く,国の重要政策を推進する観点から,統一の基準が有効であると判断された。その背景には,図書館情報委員会など個別の監督機関を統合したResourceの意義を具体的に示すという意図もあると思われる。ただし,報告書では,個人の学習について,その目的や方法を明確化する困難さや,三つの機関の日常的な活動を一律に評価することへの懸念も示されている。
基準は,「到達目標(outcomes)」と,それを測定するための「指標(indicators)」,指標の裏づけとなる「証拠(evidence)」から成る。さらに,基準を達成するための支援として,「実践方法例(good practice processes:学習者へ成果を提供する最善の方法例)」,「援助・助言(supporting advice:政策決定や運営計画策定に役立つガイドライン)」が含まれる予定である。この構成案はResourceの評議会により承認された。今後は,計画書に示されたスケジュールに従って,ワークショップや会議を開催して専門家グループ,関係団体等と順を追って意見交換を行い,文化・メディア・スポーツ省との議論により最終案を策定していくことになる。
三つの機関が共通の基準を持つことにより,サービスが標準化されること,協力関係がいっそう促進されることも狙いである。この基準で扱う事柄以外にも共通の課題は多いと思われ,今後の進展が期待される。関係者の関心は,この基準がどの程度効力を持つかに集まっているが,Resource側は,その点は今後の議論に委ねたいとしている。
松井 一子(まついかずこ)
Ref: Resource. A Learning and Access Standard for Museums, Archives, and Libraries. 2001. 4 [http://www.resource.gov.uk/information/lrnacstd.pdf] (last access 2001. 6. 11)
Resource learning standard coming. Libr Assoc Rec 103 (6) 324, 2001