CA1382 – 英国図書館政策の再編進む−BLとResource− / 柳与志夫

カレントアウェアネス
No.260 2001.04.20


CA1382

英国図書館政策の再編進む―BLとResource―

英国では学術図書館を中心に,1990年代以降の急激な情報環境の変化に対応すべく,各種図書館で様々な改革,実験への取り組みがこれまでにもなされてきたが,ブレア政権の学術・文化・情報・教育政策の重視を受けて,その流れが加速化している。ここでは国レベルでの象徴的な動きとして,英国図書館(BL)と美術館・文書館・図書館国家評議会(Council for Museums, Archives and Libraries,通称Resource)の近況を紹介したい。

2000年7月に就任したブリンドリー(L. Brindley)新館長のもと,BLでは政策形成,機能,組織のあらゆる面で新機軸が打ち出されている。政策形成面では,主務官庁である文化・メディア・スポーツ省(DCMS)との密接な連繋は当然のこととして,図書館振興に関係する国の機関,学術団体,基金,企業などあらゆる団体との関係強化,具体的には「パートナーシップ」を全面に打ち出した協同の政策形成,調査研究,共同事業プロジェクトを進めている。科学技術産業情報へのアクセスをより効果的にするための方策を考えるタスクフォースを,BL,DCMS,通商産業省(DTI)の三者でつい最近作ったのは,そのほんの一例である。また,国レベルだけでなく,地方開発庁(RDA)や地域文化コンソーシアム(RCC)と連合した地域政策への関与も注目される。

機能面では,二つの軸が明確に打ち出されている。第一の軸は文化・情報関連セクター,各館種を横断して連携させるネットワークの構築であり,「BLを英国および国際的図書館ネットワークのハブ(結節点)にする」というDCMSの委員会報告書に則ったものである。第二の軸は,国民への「直接」サービスの強化であるが,それは直接来館による図書館サービス利用の拡大を指すわけではない。具体策としては,(1)来館利用については,調査研究に限定せず多様な関心を持つ人々をひきつけることができる文化プログラムを強化する,(2)地域の公共図書館などの諸機関を通じた,あるいは直接個人に対するWebによる情報提供サービス(virtual BLと称している)を充実する,(3)館内に教育サービス班を設け,学校と連携した情報リテラシー教育の実施実験や電子的教材の作成・配布を行うことによって学校教育に積極的に関与する,などの例を挙げることができる。

そして,このような政策形成と機能を保障するのが,今夏までに予定されている全面的な組織改革である。これには四つの柱がある。

(1)現行の4部局を再編して5部局とし,電子プログラム(E-Programmes)部を新設する。同部は,主に電子図書館戦略の策定と館内関連業務の調整,民間企業を含む外部機関との協力事業の企画開発を担当することになる。広報部も強化・再編成し,マーケティング・コミュニケーション部とする。従来の図書館業務の中心であった2局も機能・分野を再整理したうえで,学術・蔵書構築局と図書館サービス局とする。ほとんど現状に近い形でとどまるのは,経営資源部のみである。

(2)最高執行機関である経営会議のメンバーを11人から6人に減員し,意思決定の迅速化と責任の明確化を図る(なお,BLには最高経営審議機関として経営会議の上に理事会が置かれている)。

(3)すべての部局に対して,責任業務分担規定に加えて,外部説明責任(external accoutabilities)を規定した。

(4)全5部局のうち,経営資源部を除く4部局長を,職務内容・報酬を明示して新聞やWebにより公募する。

以上の組織改革は,公募によって採用された全部局長が揃った時点で発効することになる。

次に,2000年4月の発足後しばらくは内部の体制づくりに追われていたResourceの活動状況であるが(設立経緯についてはCA1295参照),最近になってようやく活動目標の骨格がはっきりしてきた。すなわち,(1)美術館・文書館・図書館の境界を越えた連繋・協力事業に係る政策形成,提言,基準等の提示,(2)企業を含む国内外の関係諸機関との連繋,(3)上記分野に係る調査および研究ならびに博物館等運営の助成,(4)監督官庁であるDCMSその他の関係行政機関に対する助言・勧告・評価,の4点である。

この基本方針を受けて,2000/2001年度実行計画が策定され,各種提言,計画,評価の実施あるいは発表スケジュールが明示された。例えばその一つに「研究戦略書」(2000年12月策定)がある。その中では,Resourceにおける研究の目的と背景,全体の活動における役割,重点対象テーマ,個別の調査・研究計画の実施スケジュールが提示され,2001年7月までに博物館の将来的な安定保障措置に関する報告書を発表する,12月までに博物館・図書館などについての主要動向に関して信頼性の高いデータベースを作成する,などが規定された。

なお,2001年2月には,2001/2002年度実行計画が発表されている。

また,2001/2002年度の予算も公表され,総額は2,352万ポンド(約40億円),そのうち博物館等の運営助成や図書館関係の研究開発に係る補助金は1,845万ポンド(約31億円)にのぼる。運営体制も,Resource全体の方針を決定する理事会(理事長はエヴァンズ(Evans)卿)と,広報,企画,情報社会,専門機関・専門職,総務の各部門からなる総勢60人の事務局(事務局長はマッケイ(N. Mackay)氏)とが整備された。発足1年が経とうとしているResourceの今後の活動と具体的な成果を期待したい。

なお,BLとResourceの連携・協力も進んでいる。例えば,2001年2月には,ResourceがBLの「協力・パートナーシップ・プログラム」に5万ポンドを拠出することを決めている。

ここではBLとResourceに絞って英国の図書館情報政策(実際には文化,芸術,教育と連携させた包括的な政策)の一端を紹介してきたが,このような動きは両機関にとどまるものではない。その背景としては,EBLIDA(欧州図書館・情報・ドキュメンテーション協会連合)の図書館情報政策や,ブレア政権の中心政策の一つである国民ネットワーク構想(People's Network Project)があり,DCMSを中心に英国内の様々な学術,芸術,教育,情報関連機関・団体が従来の政策・組織の再構築に向かって一斉に動き出している。それは,「分散を保った統合化」という英国の文化情報戦略として位置づけられるように思われる。

柳 与志夫(やなぎよしお)

Ref: Brindley, Lynne. Shared agendas. Pub Libr J 15(4) 104-107, 2000
Mackay, Neville. Signals and ambitions. Pub Libr J 15(4) 98-99, 2000
BL. British Library announces new management structure to deliver digital vision. The British Library Press Information (00/102) 1-6, 2000. 12. 1
re:source [http://www.resource.gov.uk] (last access 2001. 3. 27)
BL. Human resources: vacancies  [http://www.bl.uk/information/vacancies.html] (last access 2001. 2. 7)