CA1383 – 英国公共図書館基準の内容 / 松井一子

カレントアウェアネス
No.260 2001.04.20


CA1383

英国公共図書館基準の内容

2001年1月,英国の文化・メディア・スポーツ省(DCMS)は,公共図書館の基準を公表した。決定にいたるまでの経過は既報(CA13351376参照)のとおりである。以下では,基準の内容を簡単に紹介する。

基準は19項目にわたり(本稿では丸数字で示している),1〜数項目ごとにその目的が示されている(本稿ではゴシックで示している)。ほとんどの数値は2000年5月発表の案と同じく,1999年地方政府法(Local Government Act)の「ベストバリュー」の考え方に基づき,現在の統計データの上位四分位数が使われている。ただし,基準数値を出さず,2001年4月からの3か年計画終了後に到達すべき目標を示した部分や今後の検討方法が示されている部分もある。

寄せられた意見を取り入れて,案はかなり修正されている。それぞれの言葉の定義が明示されたほか,将来は児童・社会的に排除された人々(失業者など)・マイノリティ・障害者の4グループをサービス対象に含めた「図書館年間計画」を作成すべきだとしている。なお,「社会的排除(social exclusion)」については,1999年にDCMSが公表したLibraries for Allにおいて最重要課題とされているため,今回の基準でも最大限考慮されているとのことである。基準を達成できない図書館に対するDCMSの対応がどのように行われるかについては,今後,早い時期に要領が公表される。

図書館へのアクセスを簡便にする((1),(2))


(1)図書館までの距離については,インナーロンドン特別区では100%の世帯から1マイル以内,アウターロンドン特別区では99%の世帯から1マイル以内,その他の大都市圏では95%の世帯から1マイル以内(もしくは100%の世帯から2マイル以内),ユニタリーでは88%の世帯から1マイル以内(もしくは100%の世帯から2マイル以内),カウンティでは85%の世帯から2マイル以内に図書館を設置する。「便利な時間」(平日9〜17時以外の最低週5時間)に開館している図書館については未定。今後の調査結果に基づき定める。
(2)休館時間については,中央館・分館の臨時休館(最低5日前までの予告がないもの)時間が年間開館時間に占める割合と,移動図書館の休業回数が年間実働回数に占める割合を,今後の調査結果に基づき定める。

適切な開館時間を設ける((3),(4))


(3)人口1,000人あたりの開館時間(すべてのサービスポイントの合計)は,年128時間とする。ただし,ロンドン地区は昼間人口・夜間人口の差を考慮する。
(4)大規模図書館(人口4万人以上,年間利用者数20万人程度)の開館時間は,週45時間以上とする。

電子情報へのアクセスを提供する((5),(6),(10))


(5)週10時間以上開館する図書館のうち,オンライン目録(自治体全域のもの,ただし移動図書館を除く)を提供する館の割合は,3か年計画終了後には100%とする。
(6)オンライン目録・インターネットにアクセスできるコンピュータ端末の台数は,3か年計画終了後には,人口10,000人につき6台とする。また,2002年末までには,すべてのサービスポイントでインターネットへのアクセスを提供する。

満足の得られる貸出・予約サービスを行う((7)〜(9))


(7)貸出期間は最低3週間とする。
(8)図書の貸出制限冊数は8冊とする。そのほかの資料については,各図書館が独自に年間計画の中で設定する。
(9)予約図書の提供にかかる日数は,50%が7日間,70%が15日間,85%が30日間以内とする。

図書館サービスの利用を促進する((10),(11))


(10)人口1,000人あたりのWebサイトへのアクセス数は,今後の調査結果に基づき定める。
(11)人口1,000人あたりの来館者数は,インナーロンドン特別区では7,650人(あるいは昼間人口1,000人あたり6,800人),アウターロンドン特別区では8,600人,その他の大都市圏では6,000人,ユニタリーでは6,300人,カウンティでは6,600人とする。

利用者の満足を保障する((12)〜(15))


*(12)〜(15)の数値測定には,「公共図書館調査」(PLUS)を使用する。
(12)求める資料に到達できた利用者の割合は,3か年計画終了後には,成人・子どもとも65%とする。
(13)情報検索・レファレンスサービスに満足している利用者の割合は,3か年計画終了後には,成人・子どもとも75%とする。
(14)図書館員の知識に満足している利用者の割合は,3か年計画終了後には,成人・子どもとも95%とする。
(15)図書館員の対応に満足している利用者の割合は,3か年計画終了後には,成人・子どもとも95%とする。

利用者の求める資料を提供する((16)〜(18))


(16)次の各分野および資料種別の蔵書の質に関する指標を2001〜02年に定める。成人向けフィクション,成人向けノンフィクション,子ども用(16歳以下を対象とする)資料,参考資料,大活字本・録音図書,英語以外の言語の資料。
(17)人口1,000人あたりの資料の年間増加点(冊)数は,216点とする。なお,分野・種別ごとの数値は,以下を参考とする。成人向けフィクション88点,成人向けノンフィクション57点,子ども用資料69点,参考資料11点。大活字本・録音図書については今後定める。
(18)蔵書全体が更新されるのに要する年数(蔵書数と年間受入数をもとに算出)は8.5年とする。なお,この基準だけでは蔵書の質を監督するには不充分なため,必要な館には参考指標として,資料購入費額の基準を適用するよう求める。1998/99年の人口1,000人あたりの資料購入費(ポンド)は以下のとおりである。

 
下位四分位数
中位数
上位四分位数
図 書
1,2981,6202,018
その他
253348503

             
適切な資質を持った図書館員によるサービスを行う((19))

(19)人口1,000人あたりの図書館員(情報マネジメントの知識を持つ者,情報通信技術の知識を持つ者)の数は,今のところ適切な数値が定まらない。DCMSは図書館協会(LA)等と協力し,目標設定のための調査研究を行う。なお,年間図書館計画において,人件費に占める研修関連費用の割合を報告するよう求める。

わが国で2000年末に文部省生涯学習審議会図書館専門委員会から出された「望ましい基準」とは異なり,英国政府は積極的に図書館運営に関わっていく姿勢である。実際に適用してみての続報が待たれる。

松井 一子(まついかずこ)

Ref: DCMS. Comprehensive, Efficient and Modern Public Libraries: Standards and Assessment. [http://www.culture.gov.uk/heritage/libraries_papers.html] (last access 2001. 2. 14)