CA1335 – 英国公共図書館の基準,政府案発表 / 松井一子

カレントアウェアネス
No.251 2000.07.20


CA1335

英国公共図書館の基準,政府案発表

英国の文化・メディア・スポーツ省(Department for Culture, Media and Sports: DCMS)は2000年5月15日,公共図書館基準に関する諮問文書(Standards for modern public libraries: a consultation paper,以下基準案)を発表した。これは,1999年から地方団体協会(Local Government Association: LGA)および英国図書館協会(Library Association: LA)の協力を得て検討していたものである(CA1261参照)。政府は基準案の前文で,公共図書館が文化政策において果たすべき役割として次の5点を提示した。(1)学校教育から社会教育まで,あらゆる学習環境を補助する,(2)世界中の情報への公共的な窓口となる,(3)情報弱者と強者のギャップを埋める,(4)公共サービスの改善を促進する,(5)商業・経済の発展を支える情報を提供する。基準案はこれらの役割を果たすための要件を確定し,また,1964年の公共図書館及び博物館法(Public Libraries and Museums Act 1964)が公共図書館に求めている「包括的かつ十分なサービス」を具体化したものである。

各図書館行政庁(library authority)は,遅くとも2004年までにこれらの基準を達成しなくてはならない。DCMSは各行政庁から提出された図書館年次計画(Annual Library Plan: DCMSが各行政庁に対し提出を義務づけている)に基づいて基準の達成度を調べ,各図書館の活動を監督する。

基準案は以下の23項目からなる。指標にはそれぞれ下限値(intervention point)が定められており,この数値を下回ると各行政庁は法定義務不履行とみなされる。

設置場所とアクセス

(1)各サービスポイントまでの利用者の移動時間は20分以内とする(これは暫定的な数値であり,DCMSは今後,適切な数値設定のため,各行政庁の協力を得て検討を行う)。
(2)本館および分館の臨時休館時間は,開館時間全体の5%以内とする。
(3)移動図書館の年間休業回数は,訪問回数全体の5%以内とする。

開館時間

(4)各サービスポイントの開館時間の合計は,サービス人口(夜間人口および昼間人口)1,000人につき,年間128時間(下限値は110時間)以上とする。
(5)各行政庁は,週60時間以上開館しているサービスポイントを,少なくとも1ヵ所以上設置する。また,利用者人口が[ ]人以上(数値未定)の館は週45時間(下限値は未定)以上開館する。

情報・通信技術の応用

このサービスに関しては,まだ基準を設定する段階にない。政府は,2002年までにすべての公共図書館がインターネットに接続することを公約している。暫定的な基準として次の2点を採用する。
(6)週10時間以上開館しているサービスポイントはすべて(下限値はサービスポイントの60%),目録をオンラインで提供する。
(7)ワークステーションの数は,利用者1,000人あたり0.7台(下限値は0.35台)とする。

貸出および予約サービス

(8)通常の貸出冊数及び期間は,8冊・3週間以内とする(下限値も同じ)。
(9)予約本は,50%(下限値は35%)以上を受付の7日間以内に提供する。さらに,70%(下限値は60%)以上を15日間以内に,85%(下限値は80%)以上を30日間以内に提供する。

図書館サービスの利用

(10)利用者(1年以内に1回以上利用する人)数は,夜間人口あるいは昼間人口の45%(下限値は30%)以上とする。
(11)年間総来館者数は,サービス人口1,000人につき次のとおりとする(( )内は下限値)。

 夜間人口 昼間人口
ロンドン市内7,650(6,200)6,800(5,800)
ロンドン市外8,600(7,300)8,700(7,500)
都市部 6,000(5,200)5,900(5,700)
ユニタリー6,300(5,000)6,200(5,000)
カウンティ6,600(5,900)6,600(5,900)

(12)Webサイトへの年間アクセス数は,公共図書館全体のアクセス数を順位づけした場合,上位4分の1(下限値は2分の1)に入る数とする。なお,この基準の測定のために利用可能なデータは今のところないので,収集ルートを確立する必要がある。

サービスと職員に関する利用者の満足度

次の(13)〜(17)の基準について,各行政庁は少なくとも3年に1度,定期的な利用者の満足度調査を実施し,点検する。調査の実施にあたっては,公共図書館利用者調査(PLUS―Public Library User Survey: Chartered Institute of Public Finance and Accountancyが提供する公共事業効果測定サービスの1つ)を利用すること。
(13)タイトル,主題,著者を手がかりに求める資料へ到達できた利用者数は,全利用者数の65%(下限値は60%)以上とする。
(14)検索して求める情報を得られた利用者数は,全利用者数の75%(下限値は70%)以上とする。
(15)迅速かつ正確な情報提供が行えているかどうかを,覆面調査により判定する。
(16)図書館員の知識レベルを「よい」「非常によい」とした利用者数は,全利用者数の95%(下限値は90%)以上とする。
(17)図書館員の援助を「役に立つ」「非常に役に立つ」とした利用者数は,全利用者数の95%(下限値は90%)以上とする。
(18)専門職員(LA認定司書(Chartered Librarian)を含む)数は,全職員数の29%(下限値は25%)以上とする。

資料費と蔵書構成

(19)年間総資料費は,住民人口または昼間人口1,000人につき,図書等の印刷物は2,000ポンド(下限値は1,620ポンド)以上,その他(視聴覚資料,電子出版物等)は500ポンド(下限値は350ポンド)以上とする。この数値は,書籍小売物価指数に従い,毎年上昇するものとする。
(20)蔵書更新頻度は8.5年(下限値は11年)とする。
(21)資料の年間増加点数は,夜間人口または昼間人口1,000人につき,216点(下限値は170点)とする。
次の(22)〜(23)は蔵書の質を測定する暫定的な方法である。最終的には,2000/2001年度内にDCMSがLGAおよびLAと共同で検討し,決定する。
(22)フィクション分野…サンプルリストにある資料の蔵書中に占める割合。
(23)ノンフィクション分野…主要な分野で当該年度に出版された資料の蔵書中に占める割合。
国が定める基準としては,日本の状況と異なり,利用者の満足度や蔵書構成などかなり踏み込んだ内容であるが,各図書館の負担はかなり大きいと思われる。

この基準案は2000年7月3日を締め切りに意見を募り,その後決定される。特に,まだ数値が定まっていないものや,今後さらに検討を要する項目についての意見が求められている。

松井 一子(まついかずこ)

Ref: Department for Culture, Media and Sports. Comprehensive and Efficient: Standards for Modern Public Libraries: A Consultation Paper. [http://www.culture.gov.uk/heritage/library_standards.html] (last access 2000.5.29)