CA1384 – 米国公共図書館における電子メールレファレンスの実態調査 / 伊藤りさ

カレントアウェアネス
No.260 2001.04.20


CA1384

米国公共図書館における電子メールレファレンスの実態調査

米国の図書館での電子メールレファレンスサービスについてはすでにいくつかの調査・報告が出ているが(CA11181122参照),いずれも学術図書館(大学図書館等)や医学図書館を対象としており,公共図書館に関する調査はほとんどない。そうした状況の中,1998年春,ボールドウィン公共図書館のガーンジー(B.A.Garnsey)氏らはウェイン州立大学の援助を受け,全国の公共図書館のうち電子メールレファレンスサービスを実施している図書館およびサービス利用者を対象にアンケート調査を行った。

当初の計画では,サービス実施館に調査票(7項目)を郵送し,回答を依頼すると同時に,過去3か月間に受理した電子メールレファレンスの情報(利用者の電子メールアドレスや質問の内容等)を提供してもらい,その情報に基づいて直接利用者へメールを送り,サービスを利用した動機や満足度などを調査する予定だった。しかし,調査に回答した図書館は対象とした36館のうち22館にとどまり,そのうえ,ほとんどの図書館は利用者のプライバシー保護を理由に情報提供を拒否したため,利用者の情報は,質問の内容に関しては,「質問の内容だけなら提供してもよい」と回答した2館からの,計159通の電子メールによるもの,利用者の動機,満足度等に関しては,調査者がウェブサイト上で行ったサービス利用者への質問(11項目)に対する37人からの回答だけとなった。

図書館に対する調査結果を見てみると次のようになる。サービスを開始してからの期間は平均2.15年である(最長で約4年,最短で約3か月)。広報の手段には様々なものがあったが,主なものは図書館のホームページで,次いで図書館広報紙,ちらし等が挙げられる。受理件数は週平均5.6通で,週3通と答えた館がもっとも多かった。回答に要する期間は短いもので1〜5時間,長くても1週間程度で,回答の29%は24時間以内に行われている。質問への制限は特に設けていないという図書館が約三分の一あったが,55%の図書館はあまり込み入った質問には回答していない。また,82%の図書館がサービス対象地域外からの質問にもすべて回答している一方,14%が地元に関する質問にのみ回答し,5%の図書館では,サービス対象地域外からの質問にはどんな内容であっても回答していない。担当職員の数は館によって1〜16人と幅があったが,おそらく専任担当者はいないと考えてよかろう。総体的にいって,公共図書館の電子メールレファレンスに対する態度は若干消極的な感がある。広報も十分とはいいがたく,込み入った質問には回答しないことも多い。しかし注目すべきは,実に96%の図書館が,少なくとも地元に関する内容であれば,サービス対象地域外からの質問にも回答していることであろう。

次に利用者に対する調査を見てみよう。電子メールレファレンスのほとんどは家庭から利用されており,大学図書館等の調査でも見られたように,利用の容易さと簡便性がサービス利用の動機となっているケースが非常に多い。利用者の94%は,図書館からの回答におおむね満足している。ウェブ上での調査に回答した利用者の年齢は22〜77歳で,約半数が女性であった。職業は多岐にわたるが,教育や情報産業関連の職に就いている人がかなりの割合を占め,四年制大学の卒業者が約三分の二にのぼる。回答者が非常に少ないことを考慮しても,利用者の特性を考えるうえで示唆的な結果であろう。そして,アンケートに回答したすべての利用者が,このサービスをまた利用したいと考えている。

質問内容に関する調査では,質問を内容により7つに分類した結果,(1)1,2点のレファレンス・トゥールで答えられるような簡易な調査が30%,(2)何冊もの資料を調査しないと十分な回答ができないような質問が25%,(3)家系調査が18%,以下(4)図書館に関する質問,(5)資料のリクエスト,(6)書誌的事項調査,(7)その他,の順となった。調査に回答した22館の約半数が,電子メールレファレンスでは(1)の簡易な調査を意図しているのに対し,利用者の側では必ずしもそうは考えていないようである。将来的には,電子メールレファレンスに適した質問についても利用者教育の一環に組み入れる必要があろう。しかし,いずれにしろ,今回の調査の範囲では,図書館員が危惧していたような不適切な質問はほとんどなかったといえる。

電子メールレファレンスサービスは比較的新しく,まだ実験段階にあるようなもので,各図書館で対応や運営状況にばらつきが大きい。また,図書館側の意図するサービスと,利用者側の期待との間で懸隔があることも考えられる。今回,利用者の調査が不充分な結果に終わったのは,プライバシー保護を理由に図書館が利用者の情報を提供しなかったため,直接彼らと連絡をとれなかったことが原因だと調査者は述べている。複数館を対象とし,利用者も含んだ包括的な調査を今後行っていくためにも,利用者のプライバシー保護の問題は,解決が待たれる懸案事項であろう。この問題が解決されない限り,利用者調査は個々の公共図書館が実施するもののみとなってしまうが,それらはあくまで自館の状況を述べるにとどまり,他の図書館との情報・経験の共有,比較等を行うことは難しいと調査者は指摘している。その点からしても,この調査は,対象数が小さく,回答率があまり高くないといった問題点はあるものの,複数の公共図書館を対象とした調査がほとんど報告されていない現状を鑑みれば,公共図書館での電子メールレファレンスサービスを考えるうえで多少の参考にはなるだろう。

伊藤 りさ(いとうりさ)

Ref: Garnsey, Beth A. et al. Electronic mail reference services in the public library. Ref User Serv Q 39(3) 245-254, 2000
O'Neill, Nancy. E-mail reference service in the public library. Pub Libr 38(5) 302-305, 1999
Schneider, Karen G. Internet librarian. Am Libr 31(1) 96, 2000