CA1357 – 文献提供サービスの比較評価 / 徳原直子

カレントアウェアネス
No.256 2000.12.20


CA1357

文献提供サービスの比較評価

家庭や職場に居ながらにして申込みと受取りができる文献提供サービス(ドキュメントデリバリーサービス)には様々なタイプのものがある。ここでは,5つの文献提供サービスに対し,実際に文献を依頼して入手する実験を行い分析した,興味深い調査の報告について紹介する。

この調査を行ったモーリス(Anne Morris)氏は当時,FIDDOプロジェクト(Focused Investigation of Document Delivery Options)のリサーチディレクターであった。FIDDOは,eLib(CA1333参照)が支援するプロジェクトの一つであり,ラフバラ大学情報科学部で受け持っている。電子的またはその他の方法で文献を提供する方法について,図書館等が検討を進めるためのデータを収集・公開する目的で1995年に立ち上げられ,99年までの5年にわたり,文献提供サービスに関する調査・研究を進めてきた。

ここで紹介する調査は1999年1月に報告されたもので,調査対象となったシステムは次の5つである。ビジネス・経営に関する電子ジャーナルのデータベースを持つProQuest Direct,ビジネスから法律,健康に至るまで様々な主題を扱うInfoTrac SearchBank(データベース「IAC General Business File ASAP」について調査),工学・技術情報を主とするElsevier Engineering Information EiText,Web上でデータベースを検索しそのまま文献を申し込める英国図書館(BL)のinside,そして同じくBLの文献提供センター(BLDSC)のサービス(標準的なサービスについて調査)である。調査には,ビジネス関係の論文20点のセットAと製造技術に関する論文20点のセットBの2セットが用意され,様々な時間帯に、複数の機器により申込みおよび受取りを行った。公正さを保つために,同じ文献の依頼はできる限り同じ日の同じ時間に行われた。

調査では,利用者の満足度に直接に影響する4つの事項に注目し,5つのシステムの相対的評価を試みた。調査項目と結果は以下のとおり。

(1)時間:検索または申込みをしてから文献(コピー)を入手するまでの時間を提供方法別に記録するとともに,論文1件ごとの平均時間を求めた。調査の結果,文献提供方法の違いが時間の長短に影響を与えていた。当然ながら,ProQuest DirectとSearchBankといったフルテキストデータベースは,その場でダウンロードできるので,ごく短い時間で文献を入手できた(それぞれ平均約2分と約1分)。ダウンロードに要する時間はProQuest DirectとSearchBankでは大差なかったが,プリントアウトには図表を含むProQuest Direct(平均約34分)の方がテキストだけのSearchBank(平均約8分)よりも時間を要した。Web上で申込みを受け,ファックスで提供を行うinsideは,ファックスが届くまでにセットAが約2時間半,セットBが約2時間14分であった。電子メールで申込みを受け,電子メールの添付ファイルで提供を行っているEiTextは40時間余りかかった。ILLシステム経由で申込みを受けるBLDSCは,郵送による提供なので最も時間がかかり,セットAで6日弱,セットBで8日だった。

(2)費用:論文1件ごとの費用とその平均値を比較した。調査の結果,BLDSCの文献ごとの平均単価は4.95ポンドで,EiText(15.68ポンド)やinside(16.50ポンド)の3分の1以下の値段であった。ProQuest Directは1か月の基本料金が100ドルのため,全費用から割り出した平均単価による比較を行ったところ,BLDSCの1.5倍ではあるものの,EiTextやinsideの半額の7.34ポンドであった。SearchBankは年間契約による入金のため比較ができなかった。

(3)品質:読みやすさ(readability)を基準に評価した。形態の扱いやすさ,レイアウト,文字のプリントの質,画像のプリントの質,内容を探す手立て(navigation aid)の5つの点について,論文2点を組にして比較し,優劣をつけていく一対比較法を用い,FIDDOプロジェクト参加者に判断させた。プリントの質については,BLDSCが最も評価が高く,insideの評価が最も低かった。扱いやすさについては,A3サイズのBLDSCは好まれなかった。また,レイアウトと内容を探す手立てについては,ページイメージのProQuestとBLDSCが好まれた。

(4)提供範囲:カバーしている主題の範囲と,依頼が可能な雑誌等のタイトル数を比較した。主題の範囲の広さとタイトル数の多さはBLDSCが最大であった。insideがこれに次ぐ。ProQuest Directは主題範囲は広いが雑誌数は5,000ほど,SearchBankは幅広い主題の450誌をフルテキストで提供している。EiTextは工学分野の2,600の雑誌等を扱っている。

以上をまとめると次のようになる。ProQuest DirectとSearchBankはスピードと適度な品質を持つが,BLDSCと比較するとコレクションが限られている。EiTextは専門分野に特化したサービスであるが,提供する文献に不完全なものが含まれることがある。insideはスピードと提供範囲の広さは相対的に好ましい結果を示したが,製品の質に改良の余地がある。BLDSCは,非常に料金が安く,文献の品質,料金,提供範囲においては非常にコストパフォーマンスが高いが,スピードを重視した文献提供の要求には弱い。

インターネットの普及等により,今後も文献提供サービスの利用は増えていくだろう。調査結果は,図書館にとって利用者を満足させる文献提供サービスがどのようなものか,考える材料の一つになるだろう。

徳原 直子(とくはらなおこ)

Ref:Morris, Anne et al. Experimental evaluation of selected electronic document delivery systems. J librariansh Inf Sci 31(3) 135-144, 1999
FIDDO [http://www.lboro.ac.uk/departments/dis/fiddo/fiddo.html] (last access 2000.9.11)