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カレントアウェアネス
No.279 2004.03.20
CA1516
インドにおけるナショナルサイトライセンスの実践
−国家的プロジェクトINDESTコンソーシアム−
財政事情の厳しい大学・研究図書館が,高額な電子ジャーナルやデータベースなどの電子情報を利用契約するためには,限られた財源を最大限に活用する必要がある。その有効な手段として,欧米諸国を中心に1990年代後半からコンソーシアム契約を取り入れる動きが目立ってきたが,最近では,スケールメリットから全国規模のコンソーシアムを結成し,ナショナルサイトライセンスを採用する国が増えてきた(CA1353,CA1358,CA1438参照)。アジアでは,韓国などでも同様の動きがある。
インドにおいても,1990年代後半から電子情報のためのコンソーシアムを結成する動きがいくつか見られた。しかし,冊子体で既に購読している雑誌への電子的アクセスのために,多額の追加資金を用意しなければならなかったことやコンソーシアムが参加館から費用を集金し,出版者へ送金するためには,コンソーシアムが法人格を備え,集めた資金を管理しなければならなかったことにより,そのハードルは高く,図書館員の理解不足も手伝って,どの取り組みも完全には成功しなかった。
それらの反省を踏まえ,2003年に工業・科学技術関係の大学図書館などの機関による全国規模のコンソーシアムとしてINDEST(Indian National Digital Library in Engineering Sciences and Technology)が設立された。INDESTはインド政府の3つの省庁に提出された5つのプロジェクト提案に基づき,これらのプロジェクトを統合する形で設立された。複数の省庁にまたがる一大国家プロジェクトとなりつつある。主要38大学のほか,現在までに77大学・機関が加入している。参加機関は3種類に分類される。
1番目は,コンソーシアムの中核メンバーである38大学である。これらは,全国に7校あるインド工科大学(IIT)や2校のインド情報技術大学(IIIT)を始めとする,インドを代表する国立大学である。これらの大学に対しては,大学によって異なるが,Science DirectやSpringer’s Link,ProQuest,INSPEC,Web of Scienceなどの主要な電子ジャーナル・データベースへのアクセス費用を人的資源開発省(MHRD)が負担している。
2番目は,全インド工業教育諮問委員会(AICTE)が選定した60の大学院レベルの教育を行う工業・科学技術関係の政府系大学である。これらの大学はAICTEから財政支援を受けて,INDESTに加入した。
3番目は,財政支援を受けず,独力でINDESTに加入した17の大学である。AICTEまたは大学認可委員会(UGC)の認証を受け,1,000ルピー(約2,500円)の入会金を支払うことによって,国立,私立を問わず,工業・科学技術・教育関係のあらゆる大学が加入することができる。
INDESTが主催するセミナーやワークショップには,電子情報の出版者も多数参加していて,その場で契約条件の細部に至るまで交渉することができる。その上で,INDESTは,よりよい契約条件を求めて常に努力を続けている。その結果,参加機関は,平均80%以上という高い割引率が適用された特別料金で,主要な電子情報にアクセスすることができる。出版者との交渉は価格のみではなく,アーカイブの利用やデータの更新頻度などについても,コンソーシアムはよりよい条件を引き出している。また,単に契約の条件交渉を行うだけではなく,参加機関に対する技術的支援や契約した電子情報の最適な利用法を指導する機関内研修の手配も行っている。
INDESTの運営は,IITデリー校に設立された本部によって運営されており,運営資金はMHRDが負担している。本部は,コンソーシアムの運営委員会(National Steering Committee)の決定に従って,運営されている。運営委員会は,インド政府の全面的な指導の下にコンソーシアムの政策問題に関する決定や参加機関相互間の調整の役割を果たしている。運営委員会の他に,MHRDが設立した審査委員会(National Review Committee)は,AICTEやUGCとともにコンソーシアムの政策全般およびその監視,調整に責任を負っている。
日本でも,国立情報学研究所によって,1999年から2003年まで5年間,ナショナルサイトライセンスの実験が行われたが,2004年以降の本格的な実施は見送られている。その最も大きな理由は,国立情報学研究所が全額を負担する方式で検討されていたため,財政的な裏付けがとれないことにあるようだ。前述したように,インドでは,政府の全面的な支援を受けて,INDESTが実現した。もし,今後,日本でもインドを参考にして,ナショナルサイトライセンスの利点を享受しようとするのであれば,関係機関が協力して,予算確保と参加機関の費用負担の仕組み作りに取り組む必要があるだろう。
収集部外国資料課:松井 祐次郎(まついゆうじろう)
Ref.
Arora,J. Indian National Digital Library in Engineering Science and Technology(INDEST): A Proposal for Strategic Cooperation for Consortia-based Access to Electronic Resources. International Information and Library Review. 35(1),2003,1-17.
INDEST:Indian National Digital Library in Engineering Sciences and Technology.(online),available from < http://paniit.iitd.ac.in/indest/ >,(accessed 2004-01-08).
崔虎南.(高木和子訳) 韓国における電子サイトライセンスイニシアチブ(KESLI).情報管理.44(11),2002,779-789.
船渡川清.ナショナル・サイト・ライセンスによる電子ジャーナル・サービス導入の試み.大学図書館研究.(59),2000,16-25.
国立情報学研究所.(online),available from < http://www.nii.ac.jp/index-j.html >,(accessed 2004-01-08).
松井祐次郎. インドにおけるナショナルサイトライセンスの実践. カレントアウェアネス. 2004, (279), p.4-5.
http://current.ndl.go.jp/ca1516