CA1353 – 電子情報のための図書館コンソーシアム / 井上佐知子

カレントアウェアネス
No.255 2000.11.20


CA1353

電子情報のための図書館コンソーシアム

最近になって電子ジャーナルなどの電子形態をとる資料の量が特に増加している。しかし,このような資料は従来の紙媒体の資料に比べて高価であるため購入する図書館の負担が大きく,また通常ライセンス契約による利用となるため,出版社との交渉を有利に進める能力も求められる。このような状況への対応として,当初,書誌作成や共同収集を目的として作られたコンソーシアムが,電子ジャーナルなどの共同購入の仕組みとして活用されている。

米国オハイオ州のOhioLINKは1997年にエルゼビアサイエンス社の電子ジャーナル1,150タイトルの振るテキストを利用する2,300万円の契約にサインした。米国南西部のSOLINETはパラテキスト社と19世紀文学データベースの契約を交わし,米国ニューイングランド地方のNELINETやニューヨーク州を中心とするNylinkはOED(Oxford English Dictionary),カナダオンタリオ州のOARLは無料化される前のエンサイクロペディア・ブリタニカの利用契約を結んでいる。図書館協力の歴史の比較的浅い米国ペンシルバニア州でもコンソーシアムPALCI(Pennsylvania Academic Library Consortium)が登場した。ヨーロッパやアジアでもコンソーシアムによる購入はすでに一般的である。

このようなコンソーシアムの国際団体と言えるのが国際図書館コンソーシアム連合(International Coalition of Library Consortia)である。1997年にコンソーシアムのリーダー達が集まって自発的に組織され,活動はボランティアによって支えられている。1年に2回ほど出版社などを招いて会議を行うほか,図書館団体を代表してジャーナルの価格高騰に関する交渉を行ったりもしている。

もちろんコンソーシアムはメリットばかりというわけではない。コンソーシアムの数が増加し,一つの図書館が複数のコンソーシアムに加入することも珍しくなくなると,協力事業に関わる事務的な負担量も増え,図書館の運営を圧迫する。

コンソーシアムが大規模になり様々な館種を含むようになると,ライセンス契約での課金の基準も難しくなる。大学図書館でのライセンス契約で一般的なFTE(フルタイムに相当する学生)の数による金額設定は,公共図書館や学校図書館では使えない。図書館の規模に応じた料金設定や情報の利用に手数料を加味する方法も用いられているが,出版社の側は利用に対する課金ですべてを賄うのは時期尚早だと考えている。

コンソーシアムの交渉相手となる出版社の側はコンソーシアムによる資料購入を必ずしも歓迎してはいない。ある図書館がコンソーシアムに所属しているというだけで値引き販売などの特典を与えるのはおかしいという声があり,小規模の学術出版社などには,価格を押さえるための努力を図書館側が理解していないという不満もある。一方でコンソーシアムとの取引は,それなしでは接触できなかった利用者のアクセスを保障するという意味で積極的に評価する出版社もある。しかし,交渉がスムーズに運ぶかどうかはコンソーシアムの側の経験に左右されがちである。

コンソーシアムの数はすでに飽和状態に近く,今後も増えつづけるとは考えにくい。職員の間の交流や共同の研究などの実質的な協力関係を持たない単なる共同購入のためだけのコンソーシアムは淘汰されていくことも予想される。

井上 佐知子(いのうえさちこ)

 Ref:Oder, Norman. Consortia:hit critical mass. Libr J 125(2) 48-51.2000
アン・オカーソン ライセンシング,コンソーシアム,電子コンテンツの将来:アメリカからの展望 薬学図書館 45(2) 103-108,2000