CA1537 – 動向レビュー:オセアニアのウェブ・アーカイビング / 五十嵐麻理世

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カレントアウェアネス
No.281 2004.09.20

 

CA1537

動向レビュー

 

オセアニアのウェブ・アーカイビング

 

 インターネット資源の収集・保存については,各国で様々なプロジェクトが進行している(CA1467CA1490CA1531参照)。本稿では,オーストラリアとニュージーランドの国立図書館における取り組みの概要を紹介する。

 

1. オーストラリア国立図書館

 オーストラリア国立図書館(National Library of Australia : NLA)は,1996年よりウェブ・アーカイビング・プロジェクトとしてPANDORA(Preserving and Accessing Networked Documentary Resources of Australia)を開始し,国内の文化や社会に関するウェブ情報を選択的に収集し,オンラインで公開している。毎年数百タイトルを新規追加し,2003年までに約5,000タイトルが登録された。タイトルによっては再収集も行っており,蓄積された収集データは10,000にものぼる。このような事業拡充の要因の一つには,州立図書館など国内の納本機関やオーストラリア戦争記念館(Australian War Memorial)など,現在9つあるPANDORA協力機関や他機関との分担収集を中心とした連携が挙げられる。

 NLAは,1996年に新聞や文学作品,児童向け情報なども含めた多岐にわたるウェブ情報の選択基準を公開した。その後の多様化するウェブ情報の現状や,2001年および2002年に行われた各協力機関のウェブ・アーカイビングの実態調査結果等に鑑み,より効率的で均質な分担収集を可能にするために,2003年には選択基準を改定し,(1)政府刊行物,(2)会議録,(3)電子ジャーナル,(4)高等教育機関の出版物,(5)索引収録誌,(6)時事ウェブサイトの6つのカテゴリーを重点的に収集することを付け加えた。

 PANDORAは,収集を円滑に行うために,2001年6月からPANDAS(PANDORA Digital Archiving System)を実装している。これは,収集から提供までを管理するトータルシステムである。PANDASのソフトウェア(現在ver.2)は,一般的なPC上で動作するので,PANDORA協力機関においても利用可能で,NLAのPANDORAサーバにデータを蓄積したりダウンロードしたりすることが可能である。

 2003年からは,特に増加が著しく,人手による発見が困難な「(1)政府刊行物」を対象に,オンライン出版物の自動収集の実験(Commonwealth Metadata Pilot Project)も開始された。7つの政府機関の協力を得て,各機関が発行するオンライン出版物のメタデータを,オーストラリアの総合目録である全国書誌データベース(National Bibliographic Database : NBD)に取り入れ,共同利用できるようにしている。2004年には,NBDからオンライン政府刊行物の情報を抽出してPANDASに登録し,PANDASでその刊行物を自動的に識別して収集できるように,システムや業務フローの研究開発を行う。

 また,収集された電子情報への恒常的なアクセスを保証しなければならないため,長期的保存に関する意識が非常に高い。これについては,1993年より,PADI (Preserving Access to Digital Information)イニシアティブと Safekeepingプロジェクトを推進している(CA1494参照)。

 制度面では,1968年著作権法(Copyright Act 1968)で規定されている納本制度の改定に向けて準備が進められている。1999年2月,著作権法審査委員会(Copyright Law Review Committee : CLRC)は,「(1)「図書館資料」の定義が視聴覚資料や電子資料を含むように拡大すること,(2)納本は義務であることに変わりはないこと,(3)NLAと国立映画音声アーカイブ(National Film and Sound Archive)は,著作権者の許可を得ることなく納本資料を保存できること,(4)納本資料は基本的にはアクセスが制限されること」を勧告した。2001年3月に施行されたデジタル技術や著作物の利用に関するデジタル基本法(2000 Copyright Amendment (Digital Agenda) Act)では実現されなかったが,現在,納本制度改正に伴うコストなどの調査が行われている。

 また,NLAは国際的なウェブ・アーカイビングの活動に対しても先導的な役割を果たしている。

 2003年10月の第32回ユネスコ総会で採択された「デジタル文化遺産保存憲章(Charter on the Preservation of the Digital Heritage)」の草案を作成する一方(E021E137参照),2003年8月には,IFLA,米国,英国,オランダ,ドイツと,書誌標準に関するIFLA-CDNL同盟(IFLA-CDNL Alliance for Bibliographic Standards: ICABS)を設立し(E124参照),NLAは,ウェブ・ハーベスティングと保存のためのガイドライン等の調査において責務を果たすこととなった。

 2003年には,カナダ,デンマーク,フィンランド,フランス,アイスランド,イタリア,ノルウェー,スウェーデン,英国,米国の国立図書館およびインターネット・アーカイブ(Internet Archive)と共に,国際インターネット保存コンソーシアム(International Internet Preservation Consortium:IIPC)を結成し,ウェブ・アーカイビングに資する相互運用可能なツールや技術を開発し,標準化を推進し,国際的な利用を促進することや,インターネット資源の収集・保存を奨励するイニシアティブをサポートしていくことなどを目標に定めた。

 2004年11月には,キャンベラで国際会議が予定されており,この分野での国際協力がますます進展していくだろう。

 

2. ニュージーランド国立図書館

 ニュージーランド国立図書館(National Library of New Zealand : NLNZ)は,2001年,電子情報資源の収集と管理,収集物への電子的アクセスの強化,電子図書館機能の拡大を盛り込んだ中期計画を策定した。電子図書館移行チーム(Digital Library Transition Team : DLTT)を設置して,電子情報の収集・保存にかかる業務フローの開発や,ストレージやデータ認証などインフラ整備のための仕様の確定,メタデータや識別子の調査・開発など包括的な研究を行ってきた。

 中でも,OAIS (Open Archival Information System)に準拠した保存用メタデータスキーマ(CA1489参照)は, CEDARSプログラムやOCLC/RLG保存用メタデータワーキンググループでも支持され,2003年6月にはそのスキーマを実装するためのXMLを用いたツールが発表された。このスキーマは,(1)オブジェクト,(2)プロセス,(3)ファイル,(4)メタデータ変更履歴からなる。(1)はオリジナルデータの特徴を18要素で特定し,(2)はタイムスタンプなどオリジナルデータを保存した過程の情報を記述し,(3)はフォーマットなど保存しているファイルの技術的情報を記述し,(4)はメタデータの変更履歴を5要素で管理している。

 NLNZは,1965年国立図書館法(National Library of New Zealand Act)に基づき,ニュージーランドの様々な資料を収集・保存してきたが,2003年5月,法律が改正され,電子,磁気,光学などあらゆる記憶装置に記録・蓄積された情報やそれらから二次的に作成された情報も文書(documents)と定義され(第4条),納本の範囲が拡大された。この2003年国立図書館法では,インターネット文書(internet documents)を,インターネット上で出版された公表文書(public documents)と定義し,ウェブサイト全体またはその一部を含むとした(第29条第1項)。この結果,国立図書館は,フォーマットの相違やアクセス制限の有無に関わらず,このインターネット文書について,何度でも複製することが可能となった(第31条第3項)。また,納本文書(deposited documents)がもともとインターネット上でアクセス制限や利用制限なく公開されていた場合,国立図書館は,当該文書をインターネット上で利用に供することが可能となった (第34条第4項)。

 このような納本制度の改正をふまえて,2003年12月には,NLNZのデジタル戦略がまとめられた。ウェブ・アーカイビングについては,これまでバルク(網羅的)収集と選択的収集の両方のアプローチを試みながらも,むしろ収集システムの検証や技術面での研究開発に資する調査が主に行われていたが,今後3年のうちにはシステムを整備し,蓄積されたデータにどこからでもアクセス可能とすることを目指している。

関西館事業部電子図書館課:五十嵐 麻理世(いがらし まりよ)

 

Ref.

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五十嵐麻理世. オセアニアのウェブ・アーカイビング. カレントアウェアネス. 2004, (281), p.18-20.
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