CA1401 – ヨーロッパの国立図書館における電子出版物納本への取り組み / 村上靖子

カレントアウェアネス
No.263 2001.07.20


CA1401

ヨーロッパの国立図書館における電子出版物納本への取り組み

近年,さまざまな媒体による電子出版物の普及に対応するため,各国の国立図書館は納本制度の対象範囲を拡大する必要に迫られている。欧州国立図書館長会議(CENL)のメンバー国間でも納本法もしくは任意規定に関する状況が大きく異なり,すべての国が電子出版物を納本対象としているわけではない。

EUではヨーロッパ全体としての情報政策を打ち出そうとしており(CA1375参照),その一環として,CoBRA+プロジェクト(Computerised Bibliographic Record Actions Plus Preservation and Service Developments for Electronic Publications)ではCENLと欧州出版業者連盟(Federation of European Publishers : FEP)の代表からなる合同委員会を設置した。委員会は2年間にわたって,任意の納本によって図書館の電子出版物のコレクション構築を可能にすると同時に,出版者の商業的利益を損ねずに資料へのアクセスをコントロールできるような解決策を模索してきた。その結果,各国の国立図書館と出版者の合意による,電子出版物を対象とする納本制度実施に向けての規約の作成を推奨する声明が,CENL,FEP各々の2000年度年次総会で承認された。

声明のなかで強調されているのは,納本制度によって利益を受けるのは国立図書館だけではない,という点である。すなわち,全国書誌に収録されることで出版物が社会により広く周知され,長期にわたって維持・保管されることによる利益も期待できるのである。ただし,これについては,出版者側に理解を求めなければならない。そして,各国立図書館は,国内の出版者の代表とともに早急にこの声明の採択を検討し,政府を含めて納本制度について議論すべきであること,現在のCENLとFEPの共同研究体制のもとに,国を越えた運営委員会を設置すべきであること,という2点を勧告している。

以下に要約した規約の素案はあくまでも原則であり,各国の状況に応じた修正(「出版」や「出版者」の定義のような根本的な論点も含む)が予想されている。

(1)出版地は,従来の印刷出版物と同様に扱う。
(2)あらゆる媒体の電子出版物を納本対象とする。
(3)主としてコンテンツ系資料(映像や音楽などのエンタテインメントでなく,「情報」とみなせるもの)を対象とする。
(4)既に同じ出版者から納本されている印刷出版物の複製にあたる資料,機関内部の私的利用目的のための資料,法定納本図書館が不要と判断した資料(例えばコンピュータソフトなど)は,納本対象から除外する。
(5)マイクロフォームは利用に適したフォーマットで,また電子出版物は利用に必要なソフトやマニュアルなどとともに,それぞれ納本する。
(6)納入の期限は可能な限り印刷出版物に準じる。
(7)最低1部のマイクロフォームあるいは電子出版物を,通常,国立図書館に納本する。
(8)同時アクセス数など利用形態についてあらかじめ定めておく。
(9)特定の出版物に関しては,例外的な事情がある場合は,一定期間アクセスを制限・禁止する。
(10)プリントアウトは,印刷出版物と同等の限度まで認められることが望ましい。データベースなどについては別途定める。
(11)電子媒体へのダウンロード・保存は,著作権者等および出版者とのライセンス契約による。
(12)納本された出版物を,保存やマイグレーション(新しい機器等へのデータの移し替え)のために納本図書館がコピーできるようにする。
(13)規約の発効日は各国で合意された期日とする。それ以前に発行された出版物も納本されることが望ましい。

さらに,オンライン出版物に関して,パッケージ系(オフライン)電子出版物と同様に納本制度の対象として,出版者と納本図書館が共同で考察する必要があると附記している。

一方,出版物が納本された後の利用,長期保存については,NEDLIB(Networked European Deposit Library)プロジェクトで検討された。このプロジェクトは,情報通信技術の応用についての研究開発プログラムである,欧州委員会のTAP(Telematics Application Programme)から財政援助を受け,ヨーロッパの納本図書館をネットワークで結ぶための基盤整備を目指し,オランダ王立図書館の主導で1998年から2000年にかけて実施された。

電子情報にまで納本の対象範囲を拡大しようとする過程で国立納本図書館が直面している,主な技術的問題について,IT関連業者と出版社の協力を得て調査・実験を行った結果,成果物として,収集,蓄積,アクセス,長期保存を含む電子資料納本のモデルシステム,技術的標準,実行手順などのガイドライン,納本システムの試作ソフトウェア,電子出版物納本のデモンストレーションシステムをつくりあげた。

なお,日本においても納本制度が改正され,昨年10月から国立国会図書館へのパッケージ系電子出版物の納本が開始されている。

村上 靖子(むらかみやすこ)

Ref: CENL/FEP. International declaration on the deposit of electronic publications. [http://www.ddb.de/news/epubstat.htm] (last access 2001. 5. 10)
NEDLIB [http://www.kb.nl/coop/nedlib/] (last access 2001. 5. 10)
樋山千冬 情報社会と電子出版物納本制度 図書館研究シリーズ(34) 99-110,1997