CA1624 – 次世代の図書館サービス?―Library 2.0とは何か / 村上浩介

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カレントアウェアネス
No.291 2007年3月20日

 

CA1624

 

次世代の図書館サービス?―Library 2.0とは何か

 

猫も杓子も「2.0」

 近年,世界のIT業界・ビジネス界を席巻した言葉に「Web 2.0」がある。これは2004年頃,当時急速に発展・増殖していた新世代のウェブサイトを総称する言葉として生まれた。具体的には,オンライン地図ツール“Google Maps”(CA1607参照)やオンライン書店“Amazon.com”,画像共有サイト“Flickr”,オンライン百科事典“Wikipedia”といったサービス,またより一般的にはブログ,RSS,タギング(フォークソノミー; E595CA1623参照)といったツールや機能など,利用者の参加(participation)や相互の協調(syndication)を基盤にしてコンテンツを提供するウェブサイトが,Web 2.0に当たるとされる(1)。そして,これらより以前のウェブサイトは,「Web 1.0」と呼ばれている。

 ソフトウェアのバージョンアップになぞらえたネーミングの妙もあってか,このWeb 2.0という言葉は,ウェブの世界の外側にも急速に広まった。同時に,単に技術要素だけではなく,参加・協調といった中心思想や,「従来の「1.0」は時代遅れであり,新しい「2.0」の波に乗り遅れてはならない」といった流行の意識をも含む,幅広くあいまいな概念に成長した。そして周辺領域に,「何々 2.0」という派生語を,真面目なものから戯れのものまで多数生み出した(2)。このような「2.0」の一つとして,図書館界に真面目に導入されたものが「Library 2.0」である。


 

始まりはブログから

 「Library 2.0」という業界用語(buzzword)が初めて使用されたのは,2005年9月26日,米国ジョージア州グィネット郡公共図書館(E513参照)で技術サービス部長を務めるケーシー(Michael Casey)のブログ“LibraryCrunch”だとされる(3)。これ以後,Library2.0という用語,またLibrary 2.0とは何か,何をなすべきかについての議論は,瞬く間に図書館ブログ界に広がり,さらには,実社会にも乗り出していく。ブログ界の論客たちによるシンポジウムや会議の開催,新兵訓練(Boot Camp)と称した初心者向けワークショップの実施など,2006年には米国を中心に世界各地でも多くのイベントが開催されている。


 

百家争鳴

 しかしながら現在に至るまで,Library 2.0には,確固とした定義がない。と言うよりも,論者によってまちまちに定義されている。クロウフォード(Walt Crawford)によれば,2006年1月の段階でまとめただけでも,「Library 2.0とは…である」という型の定義が,批判的なものも含めて62あり,その作者は36名・団体に上っている(4)。その後も定義は増え続けている上,各館種別の2.0 や「Librarian 2.0」「OPAC 2.0」「Open Access 2.0」など,派生形もたくさん登場している(5)

 このような議論を追っていくと紙幅がすぐに尽きるので,本稿では,「外延が広すぎる」といった批判もある(6)ことを承知の上で,Library 2.0とは「評価を頻繁に行い,利用者のインプットを活用し,利用者に確実に届くようなあらゆる図書館サービス」(7)であるとする用語の発明者ケーシーらの最近の定義を,暫定的・便宜的に採用しておく。

 

事例あれこれ

 ケーシーは,Library 2.0の実践例として,いくつかの米国の事例を好例として挙げている(8)。ここから,Library 2.0とされるサービスをいくつかの類型に整理してみたい。

  1. Web 2.0のツールを利用する

     Library 2.0の典型的な事例は,この言葉の元となったWeb 2.0の技術を利用したものである。既存のWeb 2.0のツールを,大きく手を加えることなく利用している例として,お知らせをブログで配信しているテンプル大学図書館(9),ウェブサイトそのものがブログで構成されているアナーバー地域図書館(10),ウィキ(wiki)を使ってサブジェクト・ガイドを作成しているセント・ジョゼフ郡公共図書館(11)が挙がっている。いずれも,Web 2.0の中心思想である「利用者の参加」を可能とするもので,利用者からのコメントや書き込みを活用し,利用者とともにコンテンツを作っていくことができる。

  2. 従来のツールを改良し,Web 2.0の中心思想を実現する

     従来の図書館サービスのツールを改良し,Web 2.0の中心思想を実現するという,より高度な事例である。ケーシーは,OPACで表示される目録データに利用者がコメントをつけられるようにしているヘネピン郡図書館(12)の例を挙げている。これは,Web 2.0の代表例として挙げられるAmazon.comのインターフェース(他の利用者の評価を参考にできる)と同様のアイデアであるといえよう。

  3. オープンソースのソフトウェアを作り,公開する

     ジョージア公共図書館サービスが開発している,オープンソース(CA1529, CA1605参照)の統合図書館システム“Evergreen”(13)が,この例として挙げられている。先行するオープンソースのソフトウェア(Evergreenの場合はLinux,Apacheなど)を組み合わせ,皆の知識を集めてソフトウェアを作る。そして,そのソフトウェアもオープンソースとして開放する。コンテンツではなく,それが稼働する基盤を「参加」と「協調」で作り上げるもので,さらに高度にWeb 2.0の中心思想を体現している。

  4. 利用者のニーズを満たせるような新しいサービスを提供する

     もっともケーシーらによれば,Library 2.0はWeb 2.0を利用したサービスや,オンラインで提供されるサービスだけには限られない。評価を頻繁に行い,利用者のフィードバックを反映し,利用者に確実に届くサービスは何でもLibrary 2.0である,とされる(14)。この例として,自身が所属するグィネット郡公共図書館の音楽・動画・オーディオブックダウンロードサービス(15)や,サウス・ハンチントン公共図書館のオーディオブック入り“iPod Shuffle”貸出しサービス(CA1595参照)(16),セシル郡公共図書館が実施したティーン向けゲーム大会“Teen Game Nights”(17)が挙げられている。

 

時代についていくために

 一見すると,Library 2.0は,流行を追っかけた軽いサービスのように見えるかもしれない。また,従来の図書館サービスを軽んじるものであると見えるかもしれない。実際のところケーシーは,従来の図書館サービスを,次のように批判している。「どんなに頑張ったって,図書館サービスの多くは,コミュニティの大多数の住民には使われないじゃないか」(18)

 これは極論・暴論のように見える。しかし,ケーシーほど単刀直入ではないにしても,同じような問題意識は米国図書館界に広く見受けられる。米国図書館協会(ALA)は,図書館の重要性を再認識してもらうための全国規模のキャンペーン“@ your library”を2001年から展開している(19)。またALAが2007年中の制定を目指している「全米図書館行動計画(National Library Agenda)」(E596参照)でも,図書館を取り巻く環境の変化に伴う危機意識から始まり,広くコミュニティに資するような図書館に変わる必要性が訴えられている。とりわけ,Web 2.0や図書館蔵書の大規模デジタル化の進展により,「図書館が人々から時代遅れのものと見なされるのではないか」という危機意識(E601参照)は,米国図書館界の随所に見られる。

 Library 2.0はこのような危機意識に対し,時代についていくこと―Web 2.0の中心思想で言えば「参加」「協調」―を選ぶ。時代はWeb 2.0などのウェブサービス全盛であり,このウェブサービスは空間・時間や費用の壁を突き破ることができる。またWeb 2.0の典型とされる“MySpace”など,SNSの利用者は増加の一途をたどっている(CA1618E593参照)。その参加者の中には,これまで図書館を利用してこなかった人々もたくさん含まれている。Library 2.0はこの状況をチャンスだと見る。図書館はWeb 2.0のツールを積極的に活用するとともに,Web 2.0が作り出すオンライン・コミュニティに乗り出し,その住民やその住民の知恵を図書館に取り込み,同時にそこから生まれる新しいニーズに応えていくべきだ,としているのである。

 このような立場のもと,Library 2.0の議論・実践は日々,時流を追って増え続けている。少し目を離すと,すぐに「時代遅れ」になってしまうほどである。しばらくはこの動き,収まりそうにない。

関西館事業部図書館協力課:村上浩介(むらかみ こうすけ)

 

(1) Tim O’Reilly. “What Is Web 2.0 : Design Patterns and Business Models for the Next Generation of Software”. O’Reilly. 2005-09-30. (online), available from < http://www.oreillynet.com/pub/a/oreilly/tim/news/2005/09/30/what-is-web-20.html >, (accessed 2007-02-14).

(2) yomoyomo.“2005年は「2.0」の年だった”. YAMDASProject. 2005-10-17. (online), available from < http://www.yamdas.org/column/technique/ver2_0.html >, (accessed2007-02-14).

(3) Michael Casey. “Librarians Without Borders”. LibraryCrunch. 2005-09-26. (online), available from < http://www.librarycrunch.com/2005/09/librarians_without_borders.html >, (accessed 2007-02-14).

(4) Walt Crawford. “Library 2.0 and “Library 2.0””. Cites & Insights. 6(2), 2006, p.1-32. (online), available from < http://cical.info/civ6i2.pdf >, (accessed 2007-02-14).

(5) すべてではないが,相当数の「2.0」文献へのリンクが次のサイトにまとめられている。
“Library 2.0”. LISWiki. (online), available from < http://liswiki.org/wiki/Library_2.0 >, (accessed 2007-02-14).

(6) Michael Habib. Toward Academic Library 2.0: Development and Application of a Library 2.0 Methodology. University of North Carolina at Chapel Hill, 2006.Master’s paper, (online), available from < http://etd.ils.unc.edu/dspace/handle/1901/356 >, (accessed 2007-02-14).

(7) Michael Casey et al. “Library 2.0: Service for the Next-Generation Library”. Library Journal. September 12006, p.40-42. (online), available from < http://libraryjournal.com/article/CA6365200.html >, (accessed 2007-02-14).

(8) Ibid., p.40.

(9) “Temple University Library Blog”. Temple University Library. (online), available from < http://blog.library.temple.edu/liblog/ >, (accessed 2007-02-14).

(10) Ann Arbor District Library. http://www.aadl.org/,(accessed 2007-02-14).

(11) “SJCPL Subject Guides”. St. Joseph County PublicLibrary. (online), available from < http://www.libraryforlife.org/subjectguides/ >, (accessed 2007-02-14).

(12) “Hennepin County Library Catalog”. Hennepin County Library. (online), available from < http://hzapps.hclib.org/catalog/ >, (accessed 2007-02-14).

(13) “Open-ILS.org”. Georgia Public Library Service. (online), available from < http://open-ils.org/ >, (accessed 2007-02-14).

(14) Michael Casey et al, op. cit. (7), p.42.

(15) “Virtualville”. Gwinnet County Public Library. (online), available from < http://digitalbooks.gwinnettpl.org/ >, (accessed 2007-02-14).

(16) “Books on iPod”. South Huntington Public Library. (online), available from < http://www.shpl.info/catalog_ipodbooks.asp >, (accessed 2007-02-14).

(17) Cecil County Public library. (online), available from < http://www.cecil.ebranch.info/ >, (accessed 2007-02-14).

(18) Michael Casey et al, op. cit. (7), p.40.

(19) “@ your library: The Campaign for America’s Libraries”. American Library Association. (online), available from < http://www.ala.org/ala/pio/campaign/campaignamericas.htm >,(accessed 2007-02-14).

Ref: 岡本真. “Web2.0時代の図書館―Blog,RSS,SNS,CGM”.情報の科学と技術. 56(11), 2006, p.502-508.

“Library 2.0”. Wikipedia. (online), available from < http://en.wikipedia.org/wiki/Library_2.0 >, (accessed 2007-02-14).

Jenny Levine et al. “Library 2.0 Reading List”. (online),available from < http://www.squidoo.com/library20/ >,(accessed 2007-02-14).

 


村上浩介. 次世代の図書館サービス?―Library 2.0とは何か. カレントアウェアネス. (291), 2007, 5-7.
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