カレントアウェアネス-E
No.100 2007.02.14
E601
図書館員が極めて重要である33の理由
学位取得を目指す人のための情報提供サイト“DegreeTutor.com”に発表された一篇のエッセイが話題となっている。「図書館および図書館員が極めて重要である33の理由」と題されたそのエッセイは,シャーマン(Will Sherman)が,これから図書館情報学を学び図書館員を目指す人のために書き下ろしたものである。「図書館員は時代遅れ」という考えに問いを発し,デジタル時代において図書館および図書館員が取って代わられるものではないと断言する。そして,図書館を取り囲む現在の社会的状況と,それに対応する図書館の営みと変革を,33項目に切り分けて解説している。
主なメッセージを見ていこう。まずは「社会は図書館を廃止する段階にはなく,これから先も廃止しないだろう」ということである。インターネット上にすべての情報があるという言説が流布しているが,間違いである。Google Book Searchは人類の知のデジタル化に成果を挙げているが,著作権の制約のため,現在の資料を見られるのは70年後である(E543参照)。プロジェクト・グーテンベルクは,20,000件もの無料電子書籍を誇るが,もちろんこれは氷山の一角にすぎず,重要な多くの情報源は決して無料で利用できるようにはなっていない。Googleが1億冊もの書籍のデジタル化を終えるのは今世紀末である。インターネットは図書館を補うかもしれないが,決して取って代わるものではない。
むしろ図書館は「社会と技術の変化を取り入れることができるものである」という。例えば,図書館の利用者数の表面的減少については,実は図書館自身が利用者の行動の変化に合わせて進めてきた資料のデジタル化などのサービスの進化によりもたらされているものであり,実質的な利用は決して減少しているものではない。物理的な図書館空間は,“倉庫”(warehouse)ではなく“知の交差点”(intellectual crossroad)としての機能へと変質することができる。実際,図書館はグループ研究室や展示室やカフェなどを設け,物理的な図書館空間の社会的・相互作用的性質の最大化を図っているが,これは図書館が時代に合わせて,自ら変化しているのである(CA1603参照)。
そこで働く図書館員は,「学者や市民の,オンライン上の価値ある情報を発見する方法の理解を進めるのに適任の専門家」として認識されており,「図書館及び図書館員は,文化の保存と向上のために,以前にも増して極めて重要な存在である」と結論付けている。インターネットは,DIY(自分でやること)を進めるものと認識され,媒介役となる図書館員のような存在は疑問視されている。しかし現在のインターネットの世界は異なる様相を呈している。実際のWeb2.0(E473参照)の技術動向は,インターネットに人間の知の介在を取り込む方向性を示しており,社会は,ウェブ経済における机上の利害に導かれてデジタル時代を盲目に歩くのではなく,デジタル時代のガイド,道標たる図書館員を育むべきである。
このエッセイで言及されている個々の言説は,決して目新しいものではない。しかし,近年図書館が行ってきた多様な営みを,一度立ち止まって,その意味を省みさせるものとなっている。専門図書館協議会(SLA)次期会長のエイブラム(Stephen Abram)は,いち早く反応し,自身のブログで,「この掲載記事に走れ!」と簡潔明瞭にこのエッセイを読むよう薦めている。多くの図書館員が,この未来の図書館員へのメッセージを手に取り,思いをめぐらせている。
Ref:
http://www.degreetutor.com/library/adult-continued-education/librarians-needed
http://stephenslighthouse.sirsidynix.com/archives/2007/01/33_reasons_why.html
http://tailrank.com/1182555/33-reasons-librarians-are-still-extremely-important
E473
E543
CA1603