カレントアウェアネス-E
No.155 2009.08.05
E959
開発者が語る “Koha”の10年<文献紹介>
Ransom, Joann.; Cormack, Chris.; Blake, Rosalie. How Hard Can It Be? : Developing in Open Source. code{4}lib. 2009, Issue7. http://journal.code4lib.org/articles/1638, (accessed 2009-08-04).
“Koha”(CA1529,CA1605,CA1629参照)は世界初のオープンソースによる図書館システムである。2000年にニュージーランドのホロフェヌア図書館トラスト(Horowhenua Library Trust:HLT)が最初に導入して以来,現在ではこのソフトウェアを利用する図書館が世界中に広がっている(北米42機関,アジア42機関,ヨーロッパ44機関など)。このほどcode{4}lib誌に,Koha開発の経緯をまとめ,誕生から10年を総括する記事が掲載された。著者はKohaの開発に携わった関係者3名である。
HLTが図書館システムのリプレースを検討したのは,2000年問題が待ち構える1999年のことだった。HLTが新しい図書館システムに求めたのは,(1)2000年問題の前に導入できること,(2) 初期購買費用,将来のライセンス料,維持費用の観点から見て経済的であること,(3) ダイヤルアップモデムで効率的,迅速に動くこと,(4) 最新の技術を使用し,スタッフにとっても一般利用者にとっても使い易いこと,(5) 最新技術を活用し,利用者が自宅から目録や自分の記録にアクセスできるようにすること,(6) 他の情報源(データベースやインターネット)との間に容易にリンクを張れること,であった。
しかしパッケージシステムには,これらの目的を達成できるものはなく,しかも費用が高額であることが分かり,Katipo社がHLTのために,既存の実績あるソフトウェアを利用して新しくシステムを構築することになった。同社の助言により,開発された図書館システムはGNU一般公衆利用許諾書の下で公開され,長期的な維持を図ることとなった。こうして誕生したオープンソースによる図書館システムは,マオリの言葉で「贈り物」を意味する“Koha”と名付けられた。
Kohaは,公開から間もなく世界中で知られるようになり,ソフトを支えるコミュニティが醸成されていった。Kohaに対して初めて技術的な質問が投げかけられたとき,それを解決したのは,HLTとKatipo社とは関係のない人だったという。Kohaのコミュニティでは現在,ウェブサイト,メーリングリスト,Wiki,チャット,会議・ワークショップなど,多くのコミュニケーションツールが用意されている。
一方著者らはこのコミュニティには積極的に係わってこなかった。そのために,開発当初の意図(FRBRに基づく設計など)が新バージョンにうまく引き継がれていない,HLTが開発の最前線から取り残される,といったことが起きた。開発から10年を経て著者は,開発をコントロールし,形作っていくためには,オープンソースコミュニティに参加する必要がある,と反省を込めて総括している。
最後に著者らは,ニュージーランドの小さな贈り物Kohaが地球規模のコミュニティのなかで大きな成長を遂げたことを評価し,共有,アクセシビリティ,協力という図書館の哲学に照らしても,また,財政難下のコスト面から考えても,時代はオープンソースソフトウェアに適している,と結んでいる。