E1219 – オープンソースの図書館システムは「魔弾」か,それとも?

カレントアウェアネス-E

No.201 2011.09.29

 

 E1219

オープンソースの図書館システムは「魔弾」か,それとも?

 

 初のオープンソース図書館システムKoha(CA1529参照)が2000年にデビューしてから10年以上が経過した。2006年誕生のEvergreenは現在では北米を中心に1,000館以上の導入事例を誇り,2011年にはKohaの大学図書館版パッケージLibLime Academic Kohaも登場した。日本国内でもProject Next-L Enju(CA1629参照)のようなシステムが存在している。

 カスタマイズ性や導入費用の面で利があると言われるオープンソースだが,実際にはどうなのだろうか。2011年8月15日付けの米Library Journal誌の記事“Open Source Reality Check”で,オープンソースの図書館システムを導入している館の現場の状況が紹介されている。

 記事は,ニュージャージー州のイースト・ブランズウィック公共図書館のオープンソースに関する「失敗」から始まっている。同館ではSirsiDynix社の図書館システムHorizonを使用していたが,要望した機能の開発に同社が応えてくれなかったり費用が高額だったりといった理由から,2009年にKohaに乗り換えた。しかし,貸出処理の遅さやいくつかの機能開発の失敗などから翌年には再びHorizonに戻したという。

 ワシントン州のキング郡図書館システム(KCLS)は年間2,240万冊の貸出冊数を誇る巨大な図書館ネットワークである。KCLSは,2010年9月にInnovative Interfaces社のMillenniumからEquinox社がサポートを提供しているEvergreenに乗り換えた。Evergreenは米国で広く使われており,KCLSは最大規模の導入事例になるとのことである。導入後は,Millenniumに存在した機能の欠落や,システムの性能低下などが原因で,利用者・スタッフの双方から数百のクレームが寄せられ,2011年1月にはSeattle Times紙で報道されたほどだという。

 記事では「そこまでしてオープンソースに乗り換える価値はあるのだろうか?」と疑問を投げかけている。KCLSのIT部門長は,Evergreen導入の決め手の1つはシステムとサービスをコントロールしたかったからだと話す。実際,ベンダーに費用を払うことなく自動貸出機を自作することができたという。もう1つは,Millenniumを継続するのに必要な予算とほぼ同額で導入できることだったそうである。ただし,彼は,オープンソースによって予算を大量に節約できると期待すべきではないと付け加えている。

 続いて小規模図書館の例としてワシントン州のラ・コナー公共図書館(年間貸出冊数3.8万冊)の事例が紹介されている。2011年3月,Follett社の学校図書館用システムInfoCentreでは必要な帳票が出力できない等の理由から,近隣の公共図書館と共同でEvergreenを導入した。クレームは2件程度とスムーズに乗り換えが済み,予算も削減でき,利用者からは新機能への好意的な声が聞こえたという。

 サウスカロライナ州のフローレンス郡図書館のシステム担当者も,他にインタビューした人たちと同様,Evergreenを選択した理由として,柔軟性と巨大な開発コミュニティの存在を挙げている。しかし,彼は盲目的にオープンソースを勧めるわけではなく,商用システムにも良いものと悪いものがあるようにオープンソースシステムにも良いものと悪いものがあると述べている。

 図書館システムの効果は導入館のニーズや期待によって多くが決まり,導入に成功するコツは自館に最もフィットするシステムを見つけることだという。図書館が抱える課題を楽々と解決してくれる「魔法の弾丸」は結局のところ存在しないのだろうが,オープンソースの登場によって図書館システムの選択肢が豊富になっている,と記事は締めくくられている。

Ref:
http://evergreen-ils.org/blog/?p=646
http://www.libraryjournal.com/lj/home/891350-264/open_source_reality_check.html.csp
CA1529
CA1629