カレントアウェアネス-E
No.144 2009.02.18
E893
2009年ALA冬季大会 <報告>
2009年1月23日から28日にかけて,2009年米国図書館協会(ALA)冬季大会がコロラド州デンバーにおいて開催された。
今回の大会を特徴づけるテーマとして,経済問題とオバマ新政権への期待が挙げられる。まず会長プログラムとして,ノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス(Muhammad Yunus)氏の講演会が開催された。ユヌス氏は,バングラデシュでグラミン(農民)銀行を創設し,世界の貧困問題の改善に大きく寄与している功績を評価され,2006年にノーベル平和賞を受賞しているが,今回の講演は,貧困問題への取り組みから銀行創設にいたるまでの軌跡を紹介する内容であった。またALA理事会等提供のプログラムとして,オバマ新大統領へメッセージを送ることを目的としたタウンホール形式の集会が開かれた。ニューヨーク州のライブラリアン,マーゴリス(Bernie Margolis)氏は,新大統領が携帯端末を使いこなす姿がたびたび報道されていることなどを引き合いに出し,ITに親しんでいる大統領の下で「知識経済に立脚すべくお互いに手伝い合う機会を作れるのではないか」と期待を述べるなど,参加者は様々なメッセージを共有した。
冬季大会の開催に合わせ,次世代のOPACや目録の方向性を探るベンダー各社が相次いで新機能をリリースし,これらの企業の動向への注目度が高かったのも今回の特徴であった。プログラム会場および展示会場の各社のブースには,多くの図書館員が足を運び,熱心に話に聞き入っていた。ここでは特に注目が集まっていたものを紹介する。
オープンソース検索システム“Koha”(CA1529参照)の開発で知られるLibLime社は,オープン・ライセンスの書誌データを共有する仕組みを目指し,“‡biblios.net”(E890参照) をリリースした。同じく検索インターフェース“Encore”の開発を進めるInnovative Interfaces社は,OAI-PMHでのメタデータハーベスティングを可能にする電子図書館構築ソフトウェア“Content Pro”を提供し,電子図書館コンテンツの統合検索をEncoreに組み込む方向性を示している。Web 2.0のコンセプトを前面に取り込んだ図書館統合システム“AGent VERSO”の開発を進めるAuto-Graphics社は,Adobe Flexを使用した“AGent Iluminar”という検索インターフェースの開発に乗り出すとのプレスリリースを出した。ベンダー各社の中でも特に力の入っていたのは,Ex Libris社であった。検索インターフェイス“Primo”の開発を進めるEx Libris社は,リンクリゾルバの利用ログをベースとした新たなリコメンデーションサービスである“bX”の開発を発表した。また同社製品に対する顧客による独自開発コードの共有などを支援するEL Commonsを紹介するとともに,次世代の統合図書館システムとして開発を進める統合リソース管理(URM)戦略のシステムモデルを明らかにした。
氷点下の日が続く中での開催であったが,200以上のディスカッショングループ,2,000以上の委員会の会合やイベントが開かれ,また同時に行われた展示会・プログラムにも400社以上が出展し,期間中に合わせて1万を越える人々が参加した。2008年と比較すると参加者は3,000人程度減ったものの,大会は盛況のうちに幕を閉じた。
(国立国会図書館:依田紀久)
Ref:
http://www.ala.org/ala/conferencesevents/upcoming/midwinter/home.cfm
http://wikis.ala.org/midwinter2009/index.php/Main_Page
http://www.ala.org/ala/newspresscenter/news/pressreleases2009/january2009/mwwrap.cfm
http://www.ala.org/ala/alonline/resources/selectedarticles/obama05.cfm
http://www.al.ala.org/insidescoop/2009/01/25/midwinter-saturday-membership-town-hall/
CA1529
E816
E855
E890