カレントアウェアネス-E
No.143 2009.02.04
E882
2008年の米国図書館界10大ニュース
米国図書館協会(ALA)の機関誌“American Libraries”が,2008年の米国図書館界10大ニュースを発表している。
- (1) 金融危機で図書館も厳しい状況に(E848参照)
- (2) 情報の公開をめぐる動き-ハーバード大学,イリノイ大学
- (3) 同性愛を描いた資料の禁書問題(E629参照)
- (4) プライバシー保護をめぐる戦い-外国情報監視法(FISA)改正案
- (5) 洪水,ハリケーンの襲来-ライフラインとしての図書館
- (6) 図書館でのゲーム,大きな潮流に(E863参照)
- (7) アドヴォカシー活動,図書館の危機を救う(CA1646参照)
- (8) 環境保護と図書館(E578,E609参照)
- (9) 全米図書館週間
- (10) 金融危機で図書館の利用が急増
(2)は,ハーバード大学文理学部が研究成果のオープンアクセス化(大学図書館機関リポジトリでの公開)を義務化したことと,イリノイ大学シカゴ校の図書館がオバマ大統領(当時は民主党大統領候補)の過去に関する資料の閲覧制限をしようとしたとして批判されたこと,という「情報へのアクセス」をめぐる2つのニュースである。(3)では,ペイリン(Sarah Palin)アラスカ州知事(当時は共和党副大統領候補)が,過去に市長を務めていた市で同性愛をテーマとした本などの「禁書」や,図書館長の罷免を要求したのではないか,という疑惑が図書館界で大きなニュースになったことが紹介されている。(4)は,図書館のプライバシー保護に影響を及ぼしかねない,政府機関による情報の監視活動に対するALA等の取り組みである。(5)では,度重なる自然災害での図書館の被害と,そのような災禍の中でコミュニティ復興の中心的役割を果たした図書館の話である。(6)では図書館でのゲームの提供が識字の改善,学究的関心の喚起,世代間の橋渡し,資金調達などの効果をもたらしていること,(8)では,環境保護局(EPA)図書館ネットワークの図書館5館(E609参照)の再開館と,環境評価制度“LEED”(E578参照)のゴールド保証を獲得した図書館のニュース,(9)では全米図書館週間のイベントに多くの人がオンラインで参加したこと,が取り上げられている。
とりわけ大きなニュースとなったのは,(1),(7),(10)に見られるように,金融危機と図書館の関係である。自治体の税収の落ち込み,民間の寄付や組織の基本基金(endowments)の減少。このような経済状況で,図書館の運営も苦境にある一方で,(10)が紹介しているように,図書館の利用も急増している。求職活動のためにPCを利用しに来る人も増加しているという。このような利用者を巻き込んだアドヴォカシー活動により,閉鎖や開館時間削減等の危機から救われた図書館が,(7)で紹介されている。ALAは,(1)の紹介文中で,「図書館に投資すれば,それだけのものが返ってくる」ことを人々に理解してもらうことが重要だとしている。
Ref:
Year in Review: Top 10 Library Stories of 2008. American Libraries. 2008, 39(11), p. 38-41. http://site.ebrary.com/lib/ala/home.action, (accessed 2009-01-30).
CA1646
E578
E609
E629
E848
E863