カレントアウェアネス-E
No.138 2008.10.29
E848
金融不安,図書館の運営資金にまで拡大(米国)
米国では,大手金融機関の倒産や再編,株価の大幅な下落など,経済の混乱状態が続いており,米国社会だけでなく世界各国の経済にもその影響が波及しつつある。American Libraries誌の取材によると,米国の図書館の運営資金もこの金融不安の余波をこうむっているという。
米国の図書館は,その運営資金の一部を個人・財団・企業等からの資金提供によって賄っており,米国図書館協会(ALA)が先日発表した報告書によると,地方自治体からの資金が緊縮状態にあるなか,このような財源に頼る傾向が高まっている(E839参照)。しかし金融不安は寄付主たちの台所事情に変化をもたらしており,その結果,予定どおりの寄付金を見込めず,運営資金の確保に問題を抱える図書館が出てきている。例えば,ペンシルベニア州にあるホームステッド・カーネギー図書館は,この1年間で寄付金に30万ドル(約3千万円)の損失が出ることが分かり,10万ドル(約1千万円)を節約するために,図書館長を含む2名の図書館の重役を解雇した。ニューヨーク公共図書館は,1年で最も寄付が見込める恒例イベントの協同委員長が,倒産した証券大手リーマンブラザーズの元CEO夫妻だという。こうした状況を受け,寄付金を当てにした運営資金確保のあり方を見直す必要がある,との声が様々な図書館から挙がっている。
また,税収の減少が図書館予算に与える影響も懸念されている。イリノイ大学都市計画・公共問題カレッジの学部長は,ニューヨークタイムズ紙の取材に対し,「財産税,所得税,消費税という3つの主要な税源すべてが同時に減少するのは,少なくともここ20年では初めてのことである」と答えている。
その他,大学など高等教育機関にも金融の混乱が波及している。米国では,1,000を超える高等教育機関が“Common Fund for Short Term Investment”というファンドを利用し,資産運用をしている。このファンドの受託者であるワコビア銀行は2008年9月29日,同行の株価急落など経営の混乱から,高等教育機関が当座預金口座として利用していた口座へのアクセスを制限したため,当該機関は資産の10%も引き出すことができないという事態となった。その後このファンドを運営する非営利組織Commonfundは,10月13日までに流動性資産を39.5%にまで増加させた。また,12月半ばまでに新しい受託先を見つけるとしている。
このように金融不安は,図書館運営に支障をきたすような状況を引き起こしている。しかし一方で,図書館に対して明るい見通しを指摘する専門家もいる。あるコンサルタントは,経済危機にある今こそ,小ビジネスの支援や求職,再教育といった分野で図書館が存在感を発揮すれば,ファンドレイジング市場でも注目される可能性があると指摘している。またテネシー大学図書館の開発部長は,不況下でも高等教育への寄付は継続するとの調査結果などから,それほど事態を悲観していない。
運営資金という図書館の生命にかかわる問題であるだけに,全米の図書館もまた,経済の動向を注視している。
Ref:
http://www.ala.org/ala/alonline/currentnews/newsarchive/2008/october2008/endowmentsshaken.cfm
E839