カレントアウェアネス-E
No.139 2008.11.19
E861
第8回国際ウェブアーカイビング・ワークショップ<会議報告>
第8回国際ウェブアーカイビング・ワークショップ(IWAW;CA1664参照)が,デンマークのオーフス大学を会場として,2008年9月18日から19日の2日間にわたり開催された。この会議は第12回電子図書館研究及び先端技術に関する欧州会議(ECDL;E853参照)のワークショップのひとつとして行われた。議長は,ヨーロピアンアーカイブ(注1)のマサネス(Julien Masanes)氏(E751参照)とウィーン工科大学のローバ(Andreas Rauber)氏である。マサネス氏はIWAWを立ち上げた人物であり,第1回(2002年開催)から議長等の運営役員を務めている。今回のIWAWの参加者は,両日とも100名程度であり,国立国会図書館(NDL)からは筆者が参加した。
第1日目は,ウェブアーカイブの「アクセス」,「新しいモデル・新しい課題」,“Living Web Archives: LiWA”をテーマに,9つの報告があった。「提供」では,京都大学大学院情報学研究科のヤトフト(Adam Jatowt)助教らの研究グループからウェブ情報の収集履歴等を表示するウェブアーカイブ閲覧用ブラウザの研究についての報告等があった。「新しいモデル・新しい課題」では報告のひとつとして議長のローバ氏から,ウェブアーカイブに含まれる個人情報等をフィルタリングして提供することの「倫理的課題」について発表があり,参加者から賛否両論の活発な質疑応答が行われた。
今回IWAWでもっとも時間が割かれたのは“LiWA”である。LiWAは,議長のマサネス氏が推進する,EU後援のウェブアーカイブプロジェクトである(2008年から3年間のプロジェクト)。LiWAは,IIPC(CA1664参照)加盟機関のチェコ国立図書館,ヨーロピアンアーカイブ,ハンゾアーカイブ(注2)のほか,IIPCには加盟していない大学や調査機関等で構成されている。LiWAでは,文化遺産の保存に力点をおいたこれまでのウェブアーカイブを「凍結している(freezing)ウェブコンテンツのスナップショット」と考え,商用も含めて利活用できるウェブアーカイブのための調査研究を行っている。今回LiWAからは,セマンティックモジュール(CA1534参照)の開発状況や時間的に同期のとれたウェブアーカイブの実現に向けた研究等興味深い報告がなされた。
第2日目は,ウェブアーカイブの「ケーススタディ」と「実践」をテーマに,7つの報告があった。「ケーススタディ」では,チェン(Kuang-hua Chen)氏(国立台湾大学)から台湾での法律に基づくウェブアーカイブの報告等があった。「実践」では,ベルスフォード(Philip Beresford)氏(英国図書館)から,IIPCが開発を支援する選択的ウェブサイト収集ツール“Web Curator Tool”の解説や,ラスファーグ(France Lasfargues)氏(フランス国立図書館)から,インターネット公開日記(e-diaries)を発信者からの送信により収集する取り組み等について報告等があった。
IWAWは,ウェブアーカイブに取り組む各国の参加者が,さまざまな視点で報告しあい直接意見交換を行うことができるよい場であった。今後このような国際的なワークショップにおいて,アジア地域からの報告をより増やせるよう,当館も積極的に関与する必要性をあらためて感じた。(国立国会図書館:柴田昌樹)
(注1)パリとアムステルダムを本拠にしてヨーロッパの国立図書館等と連携してウェブアーカイブ事業等を展開しているNPO
(注2)英国にあるウェブアーカイブを行う民間企業
Ref:
http://www.iwaw.net/
http://www.liwa-project.eu/
http://www.europarchive.org/
http://www.hanzoarchives.com/
CA1534
CA1614
CA1664
E606
E751
E853