E860 – 電子出版のインパクト<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.139 2008.11.19

 

 E860

電子出版のインパクト<文献紹介>

 

Brown, David J.; Boulderstone, Richard. The Impact of Electronic Publishing: The Future for Publishers and Librarians. K.G. Saur, 2008, 355p.

 本書は,1996年にBowker-Saur社から出版されたDavid J. Brownの“Electronic Publishing and Libraries: Planning for the Impact and  Growth to 2003”の改訂新版に当る。出版予告が5年近く前にあったにも関わらず刊行が遅れ,Richard Boulderstoneとの共著となったのは2000年以降の電子出版の変化が著しかったことの証左であろう。

 本書では,電子出版が出版社と図書館に与えたインパクトを3つのフェーズに分けて扱っている。フェーズ1は1990年代初めまでを扱う。このフェーズで出版社と図書館が直面していたのは,主として印刷ベースの情報システムであり,大きな問題は経済的問題であった。フェーズ2は1990年代の半ばから2000年初めまでを扱う。この時期は混乱期であり,インターネットの普及が情報産業の新しい次元を生み出し,法律上,ビジネス上,技術上の難問をもたらしたが,その多くが未解決のままである。フェーズ3は2000年以降を扱い,新たなデジタル環境への適応による出版社の買収と統合,インフラへの大規模投資,ビジネスモデルとしてのオープンアクセスの登場について論じている。この部分は本書の大半を占め,ビジネスモデル,助成研究,効率の改善,技術,データとデータセット,テキストマイニングとデータマイニング,eサイエンス(E742E762参照)とサイバーインフラストラクチュア(E701参照),ワークフロープロセスと仮想研究環境,セマンティックウェブ,モバイル機器,アーカイビングと保存という11の変革の要因ごとに状況が詳しく述べられている。

 多種多様なテーマについて最新の文献やウェブサイトを調査し,エビデンスをまとめた本書は,デジタル出版とその流通が重要な役割を果たしつつあるハイブリッド時代の学術コミュニケーションプロセスの現状と未来について,利害関係者が検討する上での出発点となろう。

(東北大学附属図書館:加藤信哉)

Ref:
http://www.degruyter.de/files/pdf/9783598115158Contents.pdf
http://www.degruyter.de/cont/fb/bb/detailEn.cfm?id=IS-9783598115158-1
E701
E742
E762