E762 – 「学術情報基盤」の「根本」を考える<文献紹介>

カレントアウェアネス-E
No.124 2008.03.05

 

E762

「学術情報基盤」の「根本」を考える<文献紹介>

Borgman, Christine L. Scholarship in the Digital Age: Information, Infrastructure, and the Internet. MIT Press, 2007, 336p.

   e-Science, e-Research,Cyberinfrasrtuctureといった言葉に見られるように,自然科学分野を先駆として,研究活動のあらゆる段階において,情報はネットワーク上で生み出され流通するようになっている(E701E742 参照)。こうした新しい形の研究活動を実現する環境としての学術情報基盤を構築していく際に,考慮すべき問題は何であり,その方向性はいかにあるべきなのだろうか?本書はこれらの問いに対し,多角的に,多くの事例を交えながら検討している。

 「学術情報基盤」という言葉に対しては,グリッド,ネットワーク,スーパーコンピュータなど技術的側面からの注目が多いかもしれないが,筆者はむしろ「将来の学術環境に最も根本的かつ永続的な影響を与えるのは,根底にある社会的および政策的な変化」であると指摘し,それを本書の主な考察対象としている。それは,筆者が繰り返し述べているように,学術コミュニケーションは多様な利害関係者から構成される複雑なシステムであり,社会的,技術的,経済的,政策的側面から理解することが欠かせないからであろう。たとえば,オープンアクセス運動については,そもそも西洋のオープンサイエンスという思想に基礎を置くもので,そのオープンサイエンスは公共財の経済原則に基づくものである。この共有精神が現在,著作権や特許の権利の範囲が拡大することによって脅かされつつある,といったように諸側面からの考察がなされている。

 本書は,9章構成で,大きく分けて3部に分けられる。最初の3章では,学術情報基盤を検討するにあたっての枠組みの説明,4章から8章では,学術情報基盤構築の上で解決すべき問題を述べており,特に6章と7章では,近年注目を集めている「データ」を取り上げ,「データ」の概念を分析し,学問における「データ」の役割と出版におけるその役割とを比較しているほか,「データ」を社会的,行動的,政策的コンテクストから検証している。そして9章では結論と今後の研究課題を述べている。

 学術情報基盤の根底を支えるものは何か,そのメカニズムはどのようになっているのかといった根本的な問題や,学術情報基盤のなかで機関リポジトリをどう位置づけるのかといった問題に関心のある方に本書をお勧めしたい。

(慶應義塾大学非常勤講師:三根慎二)

Ref:
E701
E742