E742 – ARL,研究図書館によるE-Science開発のためのアジェンダを発表

カレントアウェアネス-E

No.121 2008.01.23

 

 E742

ARL,研究図書館によるE-Science開発のためのアジェンダを発表

 

 英国国立E-Scienceセンターの定義によると,E-Scienceとは「インターネットによって可能となった世界規模の協同によって遂行されつつある,大規模な学術活動」を指す。このような協同による学術活動では,個々の研究者が非常に大規模なデータコレクションやコンピュータ資源にアクセスでき,高性能に可視化された形でそれらを利用できることが,典型的な特徴として挙げられる。

 北米研究図書館協会(ARL)は,こうしたE-Scienceの急速な進展を踏まえ,研究図書館の運営や機能,さらには使命にまで影響を及ぼしうる変革的な存在であるE-Scienceへの認識を高めるとともに,この領域に図書館をプレイヤーとして位置づけることを任務とした「E-Scienceのための図書館支援合同タスクフォース」を2006年に設置した。このタスクフォースが2007年11月,検討成果を取りまとめ「研究図書館におけるE-Science開発のためのアジェンダ」として発表した。

 このアジェンダは,E-Scienceが研究者の研究方法,利用するツール,取り組む問題の種類,扱う文書の性質,研究成果の出版を根本的に変革するものであるとの認識から始まる。そして,E-Scienceが学際的・複合領域的な性格を有すること,研究データが重要な位置を占めていることと,従来の研究図書館が学問分野ごとに分館を設置していること,データではなく学術文献を対象とした蔵書構築・提供を行ってきたこととを対比して,E-Scienceは従来の研究図書館のパラダイムを問い直すものだとする。

 その上で,米国科学財団(NSF),米国国立衛生研究所(NIH)をはじめとする米国・カナダ・英国の政府系機関のE-Science関連政策・戦略,さらに国際的な取り組みをレビューする。ここから,データの管理,アクセス保障および長期保存を含む概念としての「キュレーション」,研究データと研究文献との関連付け,主題リポジトリに代表されるヴァーチャルコミュニティを視野に入れた新しい出版・データ提供形態など,図書館が取り組むべき重要な領域が抽出されている。また,現段階で図書館がE-Scienceに貢献でき る可能性として,(a) 学術情報のオープンな交換を理解し実践している専門家の存在,(b) 情報探索のためのツールの統合・相互運用性を拡大・保障する取り組みの経験,(c) 長期保存を拡大・保障するためのビジネス,技術両面での戦略の経験,(d) 学術情報のアーカイブ的およびライフサイクル的側面の理解,の4点が挙げられている。

 そして,これらの考察を踏まえ,E-Scienceの開発における重要なパートナーとして研究図書館コミュニティが位置づけられるために望まれる成果として,次の5点を挙げている。

  • (1)E-Scienceプログラムアジェンダを開発し,協同し,評価する体制・プロセスが,ARL内で進行している。
  • (2)各研究図書館の内部,E-Science支援コミュニティ内の他の利害関係者間の双方で,サイバーインフラストラクチャ(E701参照)およびE-Scienceの開発・進展に図書館がどのように貢献できるのかが広範に理解されている。
  • (3)E-Scienceに貢献するとともに,新しい役割とサービスモデルを形作ることができる,知識と技術を備えた研究図書館専門職がいる。
  • (4)研究図書館が,研究プロセス,研究のための資産の全ライフサイクルを支えるシステム・サービスを含む研究インフラの概念化・開発における,積極的な参加者となっている。
  • (5)ARLの諸活動を支えている政策・標準・資源配分に,E- Scienceの影響が反映されている。

 これらの成果はさらに,取るべき戦略と必要とされるアクションのレベルまで具体化されている。また巻末には,E-Scienceにおいて研究図書館が果たす役割のための11のモデル原則(研究成果およびデータのオープンアクセス化の推進,機関・学問分野を超えた協同の促進など)が示されている。このアジェンダはE-Scienceの概要を紹介するだけではなく,その流れに取り残されないために研究図書館が採用すべき戦略・行動・指針にまで踏み込んでいる点で注目に値する。

Ref:
http://www.arl.org/bm~doc/ARL_EScience_final.pdf
E701