E892 – 研究図書館が置かれている環境の分析(米国)

カレントアウェアネス-E

No.144 2009.02.18

 

 E892

研究図書館が置かれている環境の分析(米国)

 

 北米研究図書館協会(ARL)は2009年中にこれまでの戦略計画の見直しを行い,2010年からの5年間に渡る新しい計画を策定する。これに先立ちARLでは,研究図書館が置かれている環境のトレンド分析を実施し,その成果を“Transformational Times:An Environmental Scan Prepared for the ARL Strategic Plan Review Task Force”として,2009年2月に刊行した。

 報告書では,(1) 学術コミュニケーション,(2) 米国・カナダ両国における研究図書館に影響がある公共政策,(3) 研究・教育・学習における図書館の役割,の3つの観点から分析を行っている。それぞれの観点からトレンドを抽出した上で,そのトレンドに関する課題,チャンス,今後の展望などを整理している。

 (1) では,予算の削減による蔵書構築の課題とチャンス,新しい出版モデル,教員との協同,研究の成果の公表とそれにまつわる権利の問題,学術コミュニケーションの変容に伴うサービスの再構築,研究プロセス全体を通した支援の必要性,サイバーインフラ(E701参照)とコンテンツ構築への大規模助成,の7つがトレンドとして挙げられ,分析されている。

 (2) では,議会と行政機関の活動が経済と国防という2つの課題に左右されていること,市民の自由,国防,情報の透明性,科学技術などの分野に関する政策の見直し,パブリックアクセスポリシー(E741参照)がもたらす利益に一層注目が集まる可能性,学術界と文化保存機関に資するような環境の確保,地方レベル・州レベル・国家レベルでの説明責任と評価への注目,といったことを含む9つのトレンドが指摘されている。

 (3) では,研究実践の変化に伴なう図書館業務の再構築,研究図書館のコレクション構築が持つ新しい意味,ヴァーチャル環境へのサービスや資源の配置の拡大,「活発で,参加型の学習」への教育の変化に対応した教員との協同,遠隔教育の学生などの誘致,大学の予算削減に伴なう投資収益率の説明責任がもたらす大幅な組織変革,という6つのトレンドが挙がっている。

 なおARLではこのトレンド分析のほか,新戦略計画の方向性と課題の優先順位の決定に生かすため,ARLのメンバー図書館の代表に対し,アンケート調査を実施中(締め切りは2009年3月8日)である。このアンケートでは,ARLが解決すべき重要課題,メンバー図書館が変革していくためにARLがなすべきサポートは何か,など5つの問いを投げかけている。

Ref:
http://www.arl.org/bm~doc/transformational-times.pdf
http://www.arl.org/arl/governance/plan-review.shtml
E701
E741