E853 – ECDL2008 ―欧州電子図書館のコミュニティ―(参加報告)

カレントアウェアネス-E

No.138 2008.10.29

 

 E853

ECDL2008 ―欧州電子図書館のコミュニティ―(参加報告)

 

 筆者は,2008年9月14日から19日まで,デンマークのオーフスにおいて開催された「第12回電子図書館研究及び先端技術に関する欧州会議」(The 12th European Conferences on Research and Advanced Technology for Digital Libraries:ECDL2008)に参加した。会期中は本会議のほか,講習会,ドクトラル・コンソーシアム,ワークショップが開催されたが,ここでは本会議の様子を中心に紹介する。

 ECDLは,図書館のみならず,文書館,美術館,博物館などのデジタルコンテンツやシステムも含めた広義の「電子図書館」(以下,DL)に関する欧州会議で,1997年(第1回はイタリアのピサで開催)から毎年開催されている。DLに関して,先端技術研究や各種プロジェクトの最新動向などについて発表する場である。欧州各国を初め,米国やアジア・オセアニアなどから情報学や情報工学などを専門とする研究者,図書館等の技術職員など約200名が参加した。

 ECDL2008は,EラーニングやEサイエンスといった隣接分野も含めて,特に情報アクセスと情報探索を支援するような研究開発に焦点を当てている。共通プログラムでは基調講演,最優秀論文セッションならびにポスターおよびデモセッションが,また選択制のプログラムとして計12のセッションが設けられた。筆者はこのうち,「デジタル保存」「利用者研究とシステム評価」「パネル討論 ウェブ対DL」「コンテンツ中心から人間中心のシステムへ」「ユーザー・インターフェースとパーソナライズ」「情報検索」の6つのセッションに参加した。これらのセッションでは,セマンティック技術や,近年のWeb 2.0の進展を反映して,利用者参加やソーシャル技術の適用について積極的に取り上げられた。

 技術研究に関するセッションが多い中,「パネル討論 ウェブ対DL:このかつてのホットトピックに戻るとき」は,国も背景も異なる参加者間でDLを巡る「哲学的」な議論がかわされたので特に紹介する。当パネルは各パネリストの短いプレゼンの後に質疑・討論を行った。一部の技術系パネリストからは,ウェブ上の他のコンテンツと比較するとDLは硬い構造をもった特定利用者層向けの囲い込まれたサービスであるとの問題提起や,そうした閉鎖的なDLが検索エンジンによってウェブ全体に統合されている現状の指摘があった。一方質疑においては,図書館情報学を背景にもつ参加者が,情報リテラシーの低下とより信頼性の高い情報を提供するDLの存在価値,現行の検索エンジンが持つ問題点を指摘するなど,立場による問題意識の違いが浮き彫りになった。

 ECDL2008は,異業種間での欧州DLコミュニティをさらに強化しつつ,成功裏に6日間の日程を終えた。次回のECDLは,2009年9月27日から10月2日にかけて,ギリシャのコルフで開催される。

(国立国会図書館:福田 亮)

Ref:
http://www.ecdl2008.org/
http://ecdl2008.org/documents/ECDL2008_conference_brochure.pdf
http://www.ecdl2009.eu/