E855 – オバマ次期大統領が語った図書館,ライブラリアンの役割(米国)

カレントアウェアネス-E

No.139 2008.11.19

 

 E855

オバマ次期大統領が語った図書館,ライブラリアンの役割(米国)

 

 2008年11月4日に行われた米国大統領選挙で歴史的な勝利を収め,次期大統領に当選したオバマ(Barack Obama)氏は2005年6月,地元・シカゴで開催された米国図書館協会(ALA)年次大会のオープニングセッションの基調講演を務め,図書館・ライブラリアンの役割をたたえる演説を行っている。

 「聖書において,ヨハネの福音書はこう始まっている。『初めに,言葉があった』。これは聖書の中で特別な意味を持つ言葉だが,より広い意味で言えば,言語,書くこと,読むこと,コミュニケーションを行うこと,そして文化を伝え,一つの人民として我々を結びつける手段の一つである本は,決定的に重要なものだ,と語る言葉なのだ」。

 このように始まった演説の中でオバマ氏は,図書館を単に本やデータを蓄積する建物ではなく,より大きな世界への窓,米国や人類の歴史を前進させるのを助ける大きなアイデアや深遠な概念が発見される場所として位置付ける。そして,我々の自由の基盤である,真理へのアクセスを支える存在,と図書館を見なす。この立場から,図書館に干渉する組織・人々を批判し,何年も,プライバシーと自由のための戦いの最前線に立ち続けてきたライブラリアンを賞賛する。「私は,図書館が学習の聖域であり続けることを保証するべく,あなた方と共に働きたい」。その上で,愛国者法か,市民の自由か,という二者択一ではなく,それらは共に実現するべきものである,と語る。

 演説の中・後半では,識字・読書の重要性を訴えている。オバマ氏は,我々が今日生きている知識経済社会においては,識字こそが,最も基本的な通貨なのであるとする。しかしながら,米国の成人の5人に1人が,簡単な物語ですら子どもに読み聞かせできないという状況にあること,またそれが,子どものリーディング能力に影響していることを危機として訴える。そして,学校の改善,教育の改革を,家庭から,親から,そして図書館から始めなければならない,とする。

 具体的には,幼少期からの学習,家庭での読書が成績向上につながるとして,家族リテラシープログラム,幼少期教育への投資が必要だとする。また,親はテレビを消して,子どもに読み聞かせをすることができる時間を,また読んだものについて語る時間を作るべき,とする。図書館に関しては,子どもの最初の検診の際に,子どもの人生最初の図書館利用カード,または,人生最初の1冊“Goodnight Moon”(オバマ氏が好きだとする絵本。邦題は『おやすみなさいおつきさま』)を持ち帰るようにするべきだ,とする。「図書館は知識経済の中で特別な役割を果たしている。親子が一緒に読むようになる,また学ぶようになる場所であり続けてきたし,これからもそうあるべきである。もっと子どもを図書館に連れて行くべきである」。

 そして演説は,こう締めくくられる。

 「知が言葉どおり力であり,機会と成功の扉を開く21世紀の夜明けにおいて,我々は親として,ライブラリアンとして,教育者として,政治家として,そして市民として,子どもたちが夢を実現するチャンスを与えるべく,子どもたちに読書への愛を植えつける責任がある。それはあなた方ライブラリアンの皆さん一人一人が毎日行っていることであり,そのことに,私はあなた方に感謝したい。ありがとう,ALA」。

 なおオバマ氏は,この演説を掲載したAmerican Libraries誌のインタビューに対し,「(幼少期に)インドネシアにいた頃,本,特に英語の本は貴重品だった。そのため,米国に戻ってきたとき,最初に行きたかった場所は図書館だった」「(就職の際に活用した)マンハッタン公共図書館がなかったら,私はシカゴにいなかっただろう」と,図書館の想い出を語っている。

Ref:
http://www.ala.org/ala/alonline/resources/selectedarticles/obama05.cfm
http://www.al.ala.org/insidescoop/?p=172
http://plablog.org/2005/06/barack-obama-video-clips.html