E2482 – 第32回保存フォーラム:図書館における資料防災<報告>

カレントアウェアネス-E

No.432 2022.03.24

 

 E2482

第32回保存フォーラム:図書館における資料防災<報告>

収集書誌部資料保存課・白石愛(しらいしまなみ)

 

  2021年12月21日から2022年1月17日にかけて,国立国会図書館(NDL)は第32回保存フォーラム「図書館における資料防災―「その日」に備える」を開催した。保存フォーラムは,資料保存に関する知識の共有,実務的な情報交換を意図した場である(E2373ほか参照)。新型コロナウイルス感染症感染防止のため,オンライン会議ツールWebex Eventsを利用した参加登録者限定のオンライン動画配信という形で開催し,222人の参加があった。

  資料を所蔵する機関にとっての防災対策には,人命や施設のためのものだけではなく,資料を守るための「資料防災対策」が含まれる。今回の保存フォーラムでは,報告者の所属機関の役割や取組など,被災経験を踏まえた対策の知見を共有することで,図書館における資料防災に関する理解を深め,実践につなげていくことを目的とした。

  以下,配信された動画での報告内容を紹介する。

●報告1「文化財防災センターとネットワークを通じた多様な文化財の救済」(国立文化財機構文化財防災センター文化財防災統括リーダー・小谷竜介氏)

  小谷氏は,2020年に発足した国立文化財機構文化財防災センター(以下「文化財防災センター」)の概要と活動内容を,日本国内における文化財防災の連携体制を踏まえて報告した。

  文化財防災には,有事の際の「救援」「復旧」だけでなく,平時からの備えとしての「減災」が重要である。「減災」には過去の災害の経験を共有することが必要不可欠であり,文化財防災センターは,そのために日本国内の既存の文化財等関連組織の幅広いネットワークを活かし,多様な文化財(有形文化財,無形文化財,図書資料等)を対象としたネットワークの深化を追求する機関であるとまとめた。

●報告2「米国の大学図書館における所蔵資料の防災の取組」(ハワイ州立大学マノア校図書館資料保存司書・日沖和子氏)

  日沖氏は,米・ハワイ州立大学マノア校図書館における所蔵資料の防災への取組について,職員向けに行った資料防災訓練の実例を踏まえて報告した。

  資料防災は,長期的に多くの関係職員の理解と協力を得て行っていくべき事業である。しかし,実際に被害が起こった際にしか成果が発揮されないため,モチベーションの維持が難しい。日沖氏はハワイ州立大学マノア校図書館の職員構成や,資料防災研修の内容への工夫を取り上げながら,職員の興味関心を維持するため,実習的内容を取り入れるなどその都度内容を変化させ,時には数年研修を行わない期間を置くことを視野に入れることが,長期的な資料防災の取組の中では有効であると考えると述べた。

●報告3「東北大学附属図書館における所蔵資料の防災について」(東北大学附属図書館情報管理課専門員・真籠元子氏)

  真籠氏は,東北大学附属図書館の過去10年の主だった3つの災害の被災状況とその後の対策,そして,それらの対策への評価について報告した。

  2011年の東北地方太平洋沖地震被災後,東北大学附属図書館では書架からの資料の落下防止に一部書架に落下防止バーを設置した他,傾斜棚を設置したことなど,具体的にどのような対策を行ったか紹介した。その上で,それらの効果が2021年福島県沖地震の際に書架の傾斜の有無による資料の落下割合(傾斜なし13%,傾斜あり0.4%)に現れたとして,多くの対策の中でも傾斜棚の導入の有効性が高い結果が示されたとした。

  その他,令和元年東日本台風(E2208参照)での被災についても触れ,水損資料に対する応急処置については,出来る限り素早く適切な処置を行うことが重要であると強調し,その方法についての参考資料も示した。

●報告4「東京都立図書館における所蔵資料の防災の取組」(東京都立中央図書館サービス部資料管理課資料修復専門員・佐々木紫乃氏)

  佐々木氏は,被災後の対応において特に緊急度の高い資料の水濡れについて,東京都立中央図書館が作成した対応マニュアル(CA1926参照)を取り上げながら報告した。

  図書館資料の被災には焼損,水濡れ,落下による破損など,多くのケースが存在するが,中でも水濡れは,対応の方法とスピードによってその後の資料の状態が大きく左右される。その中でも,近年増加している表面が加工された紙「塗工紙」が使用された資料は,使用されていない資料よりも一層乾燥方法に配慮しなければ,ページが固着し,情報が失われてしまうとして,東京都立図書館が行っている乾燥方法について動画を使って報告した。

●報告5「国立国会図書館における所蔵資料の防災の取組‐概要と資料防災研修事例」(収集書誌部資料保存課保存企画係長・吉井伶奈,同課洋装本保存係副主査・廣川明日菜)

  NDLからは2人が報告を行った。吉井からはNDLにおける資料防災の概要について,廣川からは館内職員向け研修の内容を基に,資料防災の基本的な取組み方を「予防」「準備」「対応」「復旧」の四段階に分けて詳しく報告した。

  常日頃から,リスクの把握や建物の点検,被災への備えといった「予防」,資料防災計画の策定や対応マニュアルの整備などの「準備」が重要であり,特に前もって被害が予測し得る台風や洪水の際にはしっかりと備えることが大切である(CA1997参照)。また,資料防災は,対策にどのような方法があるのかを知り,それらの中で出来ることを少しずつでも行っていくことが重要であるとされた。

  報告資料,視聴後のアンケートで寄せられた質問への回答はNDLのウェブサイトで公開しているため,是非参照されたい。

Ref:
“第32回保存フォーラム”. NDL.
https://www.ndl.go.jp/jp/event/events/preservationforum32.html
独立行政法人国立文化財機構 文化財防災センター.
https://ch-drm.nich.go.jp/
日沖和子. アメリカにおける文化財のための防災対策‐保存専門司書からの報告. 日本農学図書館協議会誌. 2021, (203), p. 26-38.
http://jaald.life.coocan.jp/www/wp-content/uploads/2021/09/kaishi_203_26-38.pdf
“資料防災”. NDL.
https://www.ndl.go.jp/jp/preservation/collectioncare/disaster_p.html
加山菜穂子. 第31回保存フォーラム:戦略的「保存容器」の使い方<報告>. カレントアウェアネス-E. 2021, (411), E2373.
https://current.ndl.go.jp/e2373
関西館図書館協力課調査情報係. 令和元年台風第15号・第19号等による図書館等への影響. カレントアウェアネス-E. 2019, (382), E2208.
https://current.ndl.go.jp/e2208
眞野節雄. 資料を守り、救い、そして残すために―東京都立図書館・資料保存の取組―. カレントアウェアネス. 2018, (336), CA1926, p. 9-16.
https://doi.org/10.11501/11115315
加藤孔敬, 川島宏. 図書館に求められる水害への備え. カレントアウェアネス. 2021, (348), CA1997, p. 5-8.
https://doi.org/10.11501/11688289