E2861 – 第73回日本図書館情報学会研究大会シンポジウム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.517 2026.01.29

 

 E2861

第73回日本図書館情報学会研究大会シンポジウム<報告>

大阪市立淀川図書館・佐藤悠(さとうゆう)

 

  2025年12月14日、京都市の同志社大学新町キャンパスにおいて、第73回日本図書館情報学会研究大会シンポジウム「図書館情報学と他領域との共同研究の可能性:連携・協働の実際」が開催された。本稿では、その内容の概要を紹介する。

  まず、コーディネーターの浅石卓真氏(南山大学)から、同シンポジウムの背景と趣旨について説明が行われた。近年の図書館情報学は他領域との協働が求められており、日本図書館情報学会が2017年に公表した報告書でも、図書館情報学の拡大の方向性として、人文社会科学の大領域との連携や隣接領域との協同などが示されている。そこでシンポジウムでは、実際に共同研究を行った研究者から、共同研究の契機、進め方、図書館情報学者の役割などを報告し、他領域との連携・協働を通じて図書館情報学を発展させていく参考にするとした。

  次に、安形麻理氏(慶應義塾大学)が「書物を多角的な視点から研究するための共同研究事例」と題して、自身が研究代表者をつとめた共同研究を事例に報告をした。共同研究は、安形氏を含む3人の研究者がそれぞれの手法で書物を研究するという形で進められた。成果報告の学会発表や論文化は個別で行い、シンポジウムは3人で行った。3人はいずれも同じ大学の教員であったが、所属学部、キャンパスが異なるという事情があったため、対面やオンライン会議システムを使いながら、円滑なコミュニケーション、情報共有を心がけたという。共同研究を進める際には、多様なコミュニケーションの方法を駆使していくことが重要と述べた。

  続いて、木村麻衣子氏(日本女子大学)が「図書館人として関わるDigital紅葉山文庫」と題して、自身が研究分担者として関わっている共同研究について報告した。Digital紅葉山文庫とは、江戸時代に江戸城の紅葉山に設置された幕府の文庫の旧蔵本に関連するデータベースを統合したコンテンツである。木村氏はシステム開発に関わり、人文学者とシステム開発者との橋渡しのような役割を求められたという。共同研究を通じて、漢籍の書誌を作成するノウハウやデータベース構築の経験を得られ、自身が「図書館人」であることを再認識できたという。

  そして、阿児雄之氏(東京国立博物館)が、「“EduData+”(教育データプラス研究会)の結成と研究活動への展開」と題して、博物館の研究員の立場から連携・協働することについて報告を行った。阿児氏は、教育学、教育工学、図書館情報学、情報学、博物館情報学分野の研究者と共同研究を行っている。saveMLAKを始めとするMLA連携の取組、図書館総合展やCode4Lib Japan等の活動を通じて図書館分野の知人ができたことで、情報を得て、共同研究のアイデアが生まれていったという。共同研究者との普段のコミュニケーションは、状況・目的に合わせてアプリケーションを使い分けている。また博物館と図書館は扱っている情報が近いようで遠いため、認識の確認は注意して行っているという。

  最後に、奥村紀之氏(武庫川女子大学)が、「VR開発がつないだ図書館情報学と知識工学」と題して、AIの研究を行う情報学研究者の立場から報告を行った。共同研究では、連携する分野の理解が追い付かない、研究分野ごとの基礎知識、専門用語、文化の壁などが課題であると感じる一方、AI研究は連携先から得られるデータが重要になるので、積極的に連携していきたいとコメントがあった。

  その後のパネルディスカッションでは、登壇者同士や会場からの質疑応答が行われた。他分野との連携では、連携先の研究について勉強でき自身の研究の刺激になること、他分野の成果を活かすことが自身の研究のインパクト向上につながるなどのメリットが共有された。その一方、評価基準が異なるなど、もどかしさを覚えることもある、初期キャリアの研究者は共同研究のきっかけが得にくいなどの課題が挙げられた。

  共同研究への関心や期待が高まるなか、本シンポジウムでは具体的事例を通して、その意義や課題から普段のコミュニケーションのコツまで幅広い情報が共有された。今回のシンポジウムを機に、図書館情報学と他領域の共同研究がより一層発展することを期待したい。

Ref:
“研究大会 第73回研究大会開催概要”. 日本図書館情報学会.
https://jslis.jp/events/annual-conference/
“図書館情報学教育に資する事業ワーキンググループ報告書 ※修正版を公開しました(2019/4/1)”. 日本図書館情報学会. 2017-07-24.
https://jslis.jp/2017/07/24/publication-others/
“初期印刷文化における「書物のあるべき姿」の変容の総合的な解明”. KAKEN.
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18H03496/
“江戸幕府紅葉山文庫の再構と発信―宮内庁書陵部収蔵漢籍のデジタル化に基づく古典学―”. KAKEN.
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20H00013/
Digital紅葉山文庫.
https://db2.sido.keio.ac.jp/momijiyama/
“学校教育とデジタル・アーカイブを結ぶ学習内容情報LODを用いた架橋モデルの設計”. KAKEN.
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23K28384/
saveMLAK.
https://savemlak.jp/wiki/saveMLAK