E2051 – Japan Open Science Summit 2018<報告>

カレントアウェアネス-E

No.352 2018.08.09

 

 E2051

Japan Open Science Summit 2018<報告>

 

 2018年6月18日から19日まで,学術総合センター(東京都千代田区)において,Japan Open Science Summit 2018(JOSS2018)が開催された。国内でオープンサイエンスに携わる関係者を対象としたカンファレンスである。基調講演,特別講演及び18のセッションで構成され,最後にパネルセッションが設けられたほか,主催及び協力機関がオープンサイエンスや研究データに関する各自の取組について紹介するポスター展示が行われた。本報告では,このうち,2つの講演と2つのセッションを中心に報告する。

 基調講演は,「オープンデータとその質保証に関するオーストラリアおよび国際的な視点」と題し,オーストラリア国立データサービス(ANDS)エグゼクティブディレクターのウィルキンソン(Ross Wilkinson)氏により行われた。データ研究に関するトレンドや,オープンサイエンスに関する国際的な動向が紹介され,今後は,データ利用のための調整を行う場として,信頼できるデータリポジトリやデータ市場の構築が課題となるだろうという予測が述べられた。また,ANDSがオーストラリア政府の研究インフラ整備戦略“NCRIS”に基づき実施してきた,研究データの管理・発見・関連付け・利活用を通じて研究データを資源化して価値を高める取組とこれまでの成果について説明があった。会場からは,データのオープン化や品質管理にかかる予算の問題について,また,オープンデータを取り巻く状況が大きく変化している中で,日本に対する示唆が欲しいといったコメントが寄せられたのに対し,ウィルキンソン氏からは,予算の確保が厳しいのは確かであるが,オープンサイエンス推進に向けては,インフラだけでなく各領域の価値を高めて国際的な連携を進めていくことが重要との回答があった。

 特別講演は,「AMEDのミッション:データシェアリングはなぜ難しいか?」と題し,国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)理事長の末松誠氏により行われた。最初に,医学に関わるステークホルダーの現状について説明があった。その中で,医学分野ではデータの作成やデータを共有することによる研究への貢献を適切に評価できていない問題について述べられた。データを共有するための取組の一例として,AMEDが主導する未診断疾患イニシアチブでの積極的なデータシェアリングの紹介があった。発見された国内症例を世界に発信するだけではなく,国際的なデータシェアリングのネットワークに参加して共有することで未知の症例発見につなげているとのことであった。その他,EU一般データ保護規則(GDPR)の施行によりデータシェアリングが阻害されることへの懸念や,診療画像等のナショナルデータベース構築に向けた医学以外の分野との協力推進などが取り上げられた。

 「研究データのライセンス条件を考える:産官学ラウンドテーブル」セッションは,研究データ利活用協議会(RDUF)ライセンス検討小委員会が主催した。同小委員会は,研究データの公開者と利用者の双方にとって有用で分かりやすいライセンス条件の在り方を検討している。本セッションでは,まず,企業データ,公共データ,デジタルアーカイブの各関係者から,データの二次利用に係る状況と課題について発表があった。企業データについては,データ流通市場においてデータ利用の妨げとなる契約の存在やそもそも契約書の解読が難しい点をあげるとともにメタデータ流通基盤がなくデータの存在が分からないことに課題があること,公共データについてはオープンデータ化は進んでいるがPDFが多く機械判読可能なものが少ないことが課題であること,デジタルアーカイブについては権利表記がないため再利用できない状況が課題であることなどが報告された。同小委員会が研究者等に対して行ったアンケートの報告もあり,多くの研究者は自らのデータの利用に関し,引用・出典の明示,利用者や利用目的の報告を望んでいること,また,クリエイティブ・コモンズの認知度は半数程度だが使っているのは3割といったことなどが紹介された。ディスカッションでは,研究者同士ではうまくいかない場合の橋渡しをする「触媒役」が必要,ライセンス条件の標準をまずは決めることが重要,データ提供のインセンティブとしてライセンス等でデータ引用を徹底し新たな研究成果からも元データにたどれるようにすることが大事,分野を超えて失敗データも共有できるとよい,分野・機関を跨いでデータのライセンスについて相談できる問合せ先があるとよい,Open by Default(オープンを原則とする)の考え方を前提として条件検討を進めていくべきなどの議論が展開された。

 「研究における永続的識別子の現状と将来」セッションは,研究における永続的識別子(PID)の重要性についての説明から開始された。デジタルオブジェクト識別子(DOI),研究者識別子(ORCID),研究助成識別子(Grant ID)についての概要説明の後,生命科学分野における識別子の利用状況や,材料科学分野における識別子の付与対象の検討状況についての報告があった。各分野に共通する課題として,識別子の一意性の問題や識別子の背後にあるオントロジー等共通語彙の集積,構築の問題が挙げられた。ディスカッションにおいては,研究の現場において識別子とは目的でなく手段であり,データベース構築者の視点からの識別子の議論にとらわれるのではなく,研究者側の視点に基づいて分野独自のローカル識別子を広く許容し,それらをつなぐための最低限の共通性を持たせればよいのではないかという意見や,様々なローカル識別子をDOIのような汎用性のある識別子にマッピングしていけばよいのではないかという提案があった。

 パネルセッションは,展示会場の一角に設けられた「世界のオープンサイエンス」「日本のオープンサイエンス」をテーマに参加者が自由に意見や質問等を記入できる意見募集コーナーに寄せられた意見等に沿って進められた。オープンサイエンスには,研究のデジタル化,学術出版,政府の政策,市民科学等が大きく関わっているのではないか,オープンサイエンスとオープンデータの違いはなにか等の議論があり,オープンサイエンスが進むきっかけや,オープンサイエンスのプロセス等について議論がなされた。

 セッション内容や当日のスライド等は,一部を除いてウェブページから閲覧可能である。

電子情報部・伊東敦子
電子情報部電子情報企画課・徳原直子,中川紗央里
電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室・里見航
電子情報部電子情報流通課・奥田倫子

Ref:
http://joss.rcos.nii.ac.jp/
http://joss.rcos.nii.ac.jp/session/0618/?id=se_90
https://www.amed.go.jp/program/IRUD/index.html
http://joss.rcos.nii.ac.jp/session/0618/?id=se_94
http://joss.rcos.nii.ac.jp/session/0618/?id=se_91
http://joss.rcos.nii.ac.jp/session/0619/?id=se_118