E2418 – フランス図書館員協会(ABF),「図書館員の倫理綱領」を改訂

カレントアウェアネス-E

No.419 2021.09.02

 

 E2418

フランス図書館員協会(ABF),「図書館員の倫理綱領」を改訂

日仏会館図書室・仲本由佳(なかもとゆか)

 

   2020年11月16日,フランス図書館員協会(ABF)総会は「図書館員の倫理綱領」の改訂版(Code de déontologie des bibliothécaires)を全会一致で採択した。「図書館員の倫理綱領」(Code de déontologie du bibliothécaire) (E084参照)は,2003年,ABFの評議会において採択され,17年の時を経て,今回初めての改訂がなされた。

本稿では,2003年版綱領の概要を述べた後,今回の改訂内容について紹介する。

●2003年版の概要

   2003年に発表された「図書館員の倫理綱領」は,公立および私立の図書館で働くすべての図書館員を対象とし,利用者の絶対的尊重を基本とした図書館員の義務を定めている。

   綱領は「利用者」「資料」「図書館監督機関」「図書館専門職」の4項目からなる。各項目が5から10の条文で構成されているが,内容を要約すると以下の通りである。

  • 利用者
    情報と読書へのアクセスは市民の基本的権利であることを念頭に,図書館員はすべての利用者を尊重し,公平な接遇により利用者の知的自由を保障する。
  • 資料
    客観性,言論の多様性,偏りのなさといった基準を満たす資料収集を行い,利用者の自立的な学びに供する。いかなる検閲も行わない。
  • 図書館監督機関(公共または民間の団体)
    図書館員は,図書館監督機関の文化政策の策定に参加する。図書館員は,法と機関の使命と倫理綱領が定めた価値とを守りながら,図書館監督機関の政策を実施する。図書館員は,直接,もしくは図書館監督機関を通じて,業務に政治的その他の圧力が加わらないよう監視する。
  • 図書館専門職
    図書館員は相互扶助と協働の職業集団を形成する。職業人として,高いレベルの専門知識を維持できるよう研鑽を積み,図書館専門職の社会的有用性に寄与する。

   他国の図書館協会が有する同様の綱領と比較して,この倫理綱領の新しい点は「図書館監督機関」の項目を独立させ,その権限を定めたことである。

   ABFの倫理委員会は,この綱領が発行以来,図書館員の行動規範として参照され続けている一方,発行から15年余りが経過し,語彙や内容の面で時代にそぐわない,あるいは遺漏があるため改訂を必要とする部分があることを認め,2018年よりその改訂作業に取り組んでいた。以下に具体的な改訂の内容を紹介する。

●2020年版の主な改訂ポイント

  • 対象の変更
    2003年版は「公立および私立の図書館で働くすべての図書館員を対象」としていたが,改訂版では,「この綱領は,その法的性質に関わらず,公共サービスに従事する図書館員に向けて書かれたものであるが,それ以外の図書館員にも示唆を与えうるものである」という記述が前文に加えられ,実際的には,この綱領が公共サービスの領域に含まれる図書館にのみ適用可能であることを示した。
  • 「図書館員」「利用者」という呼称に用いられている男性形単数の表記の変更
    「図書館員」を表す«le bibliothécaire»(男性形単数)を,中性複数«les bibliothécaires»もしくは単数形«le personnel des bibliothèques»に変更した。また,「利用者」を表す«l’usager»(男性形単数)を«les publics»に変更した。
  • 図書館サービスの現状を反映する記述
    2003年版全体を通して用いられていた「資料」(la collection)という限定的な語を,現在の図書館サービスの様相により呼応する「図書館情報資源,資料,サービス」(les ressources, collections et services)というひとまとまりの表現に置き換えた。オープンアクセス(l’accès ouvert au savoir)の促進に関する文言を追加した。
  • 個人情報保護に関する言及
    利用者の読書事実,利用事実に加えて,「個人情報」も機密性の保証の対象とした。
  • ライシテ(la laïcité)への言及
    ライシテ(宗教からの独立)は,2016年の改正法により公務員の権利と義務の一部となったため,倫理綱領においても言及されるべきとの判断から,「誰にでも開かれた,寛容な,親しみやすい図書館というコンセプトを市民に広めること」の条文に「宗教から独立した(図書館)」の文言を加えた。
  • 倫理綱領の法的性質
    前文に「(本綱領の)目的は,図書館専門職が自律的に定めた職務上の指針となることである。」という文言を追加することによって,倫理綱領に法的拘束力はなく,共同体に対して法的に対抗できるものではないことを明確に示した。

   改訂版前文では,この綱領を「ユネスコ公共図書館宣言」(1994年),「図書館員と情報労働者の倫理綱領(国際図書館連盟)」(2012年),「図書館における市民の情報と知識へのアクセスに関する基本的権利の憲章(La charte Bib’Lib’de l’ABF;フランス図書館員協会)」(2018年)を補完するものとしている。

  「図書館における市民の情報と知識へのアクセスに関する基本的権利の憲章」と倫理綱領との大きな違いは,前者が個人や共同体による加盟方式であるのに対し,後者はそのような方式は採用せず,図書館員の自律的規範に留めている点である。

   ABFの倫理委員会は,改訂作業の過程において,倫理綱領も憲章のような加盟方式をとるべきかを検討し,最終的に現行の形を維持することを選択した。個人からも共同体からも独立した普遍的な影響力を持つテキストのままにすることで,厳密な意味で法的拘束力を持たないにも拘らず,参照され続ける綱領とするためである。

Ref:
“L’ABF met à jour le “Code de déontologie des bibliothécaires””. ABF. 2020-11-23.
https://www.abf.asso.fr/1/22/900/ABF/l-abf-met-a-jour-le-code-de-deontologie-des-bibliothecaires
Code de déontologie du bibliothécaire. ABF.
http://www.abf.asso.fr/fichiers/file/ABF/textes_reference/code_deontologie_bibliothecaire_2003.pdf
CODE DE DÉONTOLOGIE DES BIBLIOTHÉCAIRES. ABF, 2020, 5p.
http://www.abf.asso.fr/fichiers/file/ABF/textes_reference/code_deontologie_bibliothecaires_2020.pdf
CODE DE DÉONTOLOGIE DES BIBLIOTHÉCAIRES. ABF.
http://www.abf.asso.fr/fichiers/file/ABF/textes_reference/code_deontologie_ABF_commentairedesmodifcations.pdf
ARGUMENTAIRE POUR LA RÉVISION DU CODE DE DÉONTOLOGIE DE L’ABF. ABF.
http://www.abf.asso.fr/fichiers/file/ABF/textes_reference/argumentaire_revision_code_deontologie.pdf
Briand Gérard. et. al. Le code de déontologie du bibliothécaire. BBF, 2004, 49(1), p. 62-65.
https://www.enssib.fr/bibliotheque-numerique/documents/37071-le-code-de-deontologie-du-bibliothecaire.pdf
IFLA 倫理綱領. 井上靖代訳, 国際図書館連盟.
https://www.ifla.org/files/assets/faife/codesofethics/japanesecodeofethicsfull.pdf
CHARTE du droit fondamental des citoyens à accéder à l’information et aux savoirs par les bibliothèques. ABF.
http://www.abf.asso.fr/fichiers/file/ABF/biblib/charte_biblib_abf.pdf
ユネスコ公共図書館宣言 1994年. IFLA.
https://repository.ifla.org/handle/123456789/185
フランス図書館協会「図書館員の倫理綱領」を採択. カレントアウェアネス-E, 2003, (15), E084.
https://current.ndl.go.jp/e084