E2419 – オランダの公共図書館内メイカースペースに関する調査

カレントアウェアネス-E

No.419 2021.09.02

 

 E2419

オランダの公共図書館内メイカースペースに関する調査

国際子ども図書館企画協力課・繁元康太(しげもとこうた)

 

   オランダ王立図書館(KB)は,2020年,国内の公共図書館(以下「図書館」)における創作活動やメイカースペースに関する調査を実施し,2021年5月,結果を公表した。2018年にも同様の調査を実施しており,今回はその後追い調査となる。以下,概要を紹介する。

   調査は,オランダ国内の図書館に関する調査用プラットフォーム「ライブラリーモニター」(Bibliotheekmonitor)を通じて実施され,102の図書館から回答を得た(回答率72%)。調査内容は,創作活動全般に関するものと,メイカースペースに関するものである。

   創作活動全般に関する質問としては,どのような活動を実施しているか,またターゲットとしているグループ(年齢層)は何かといった活動の内容に関するもののほか,スタッフや財源に関する質問もなされた。活動内容として多く挙がったのは,コーディング・プログラミング,ロボティクス,文芸創作などで,多くは12歳以下の子どもを主な対象としているが,文芸創作については大人をターゲットにしている図書館が多いようである。活動は図書館で行われることが多いが,オンラインで行われるものもある。創作活動に関わるスタッフにはボランティアを活用したり,専門家を雇用したりしている。財源については,図書館の予算のほか,国や自治体の補助金や利用者の費用負担などでまかなわれている。

   次に,メイカースペースに関する調査内容である。調査に参加した102の図書館のうち,44の図書館が1つ以上のメイカースペースを有していた。この44の図書館から,メイカースペースの用途や設計に関すること,利用者層などについて回答が得られた。なお,2018年にメイカースペースを有していると答えた図書館は42で,2020年とさほど変わらない。実は,2018年の調査によると,2017年に16のメイカースペースが新しく作られており,メイカースペースの新設はこの時点で一段落ついていたのかもしれない。

   用途については,多くの図書館がファブラボ(fablab)やデジラボ(digilab)としてメイカースペースを設置していて,3Dプリンターが置かれていたり,プログラミングができるようになっていたりする。他には,芸術活動ができるアトリエや,AR・VRスタジオになっている場合もある。設置場所は,オープンスペースの一角などの開かれた空間に置かれる場合や,専用の部屋が設けられる場合などがある。設計にあたっては,外部のパートナーと協力したり,他のメイカースペースを参考にしたりすることが多いようである。利用者は18歳以下の若者が多い一方,大人や高齢者へのアプローチが不足しているという回答が目立った。男女比でいうと男性がやや多いが,図書館によってまちまちである。

   メイカースペースの運営にあたっての問題点やうまくいっていることについても調査されている。問題点として主に挙がっていたのは,スタッフの確保や専門性の不足についてである。ただし,この2点は2018年の調査でも問題点として挙げられていたが,前者は55%から50%に,後者は55%から43%に減少している。これらとは別に,前述のとおり,大人へのアプローチについても課題となっている。

   一方,うまくいっていることとして,学校やプロの創作家など外部のパートナーとの協力が挙げられていた。パートナーに講師役を依頼するほか,活動に必要な製品を借り受けることもあるという。その他,組織としての優先度の高さや財源の確保などがうまくいっていることとして挙げられていた。

   以上が調査の概要である。国内の図書館内メイカースペースについて,このような包括的な調査が連続して行われているところから,オランダの図書館におけるメイカースペースの重要性が想像できる。実際,KBは,他者とともに知識を集合させ,共有し,発展させる「作業場」(werkplaats)としての図書館の役割を想定してきた。また,吉田(2018)は「(メイカースペースは)オランダの図書館でももっともホットな話題となっている。大きめの図書館を訪問すると,必ずご自慢のメイカースペースに通された」(p.108-109)と記述している。単に箱を設置するだけでなく,組織としてプライドをもってメイカースペースを運営していることがうかがいしれよう。

   なお,今回紹介した調査は概観的なものであったが,過去にはオランダ国内の個々の図書館内メイカースペースに焦点をあてた調査も実施されており,その内容はオランダ・デルフト工科大学のCaso氏らによる報告書“Atlas: Makerspaces in Public Libraries in The Netherlands”にまとまっている。興味のある方はあわせて参照されたい。

Ref:
“Vervolgonderzoek naar makerplaatsen in bibliotheken gepubliceerd”. Bnetwerk. 2021-05-11.
https://www.bibliotheeknetwerk.nl/nieuws/vervolgonderzoek-naar-makerplaatsen-in-bibliotheken-gepubliceerd
De bibliotheek als plaats voor creatieve en persoonlijke ontwikkeling: Onderzoek naar makerplaatsen en maken in bibliotheken. KB, 2021, 27p.
https://www.bibliotheeknetwerk.nl/sites/default/files/2021-05/Rapportage%20Makerplaatsen%20in%20openbare%20bibliotheken%202021_0.pdf
“Makerplaatsen in de bibliotheek”. Bnetwerk. 2019-11-12.
https://www.bibliotheeknetwerk.nl/artikel/makerplaatsen-in-de-bibliotheek
Makerplaatsen in openbare bibliotheken: Onderzoeksresultaten BOP-enquête Makerplaatsen. KB, 2018, 16p.
https://www.bibliotheeknetwerk.nl/sites/default/files/2020-07/Rapportage%20makerplaatsen%202018.pdf
Caso, O. ; Kuijper, J. Atlas: Makerspaces in Public Libraries in The Netherlands. Delft, TU Delft Open, 2019, 158p.
https://books.bk.tudelft.nl/index.php/press/catalog/book/684
吉田右子. オランダ公共図書館の挑戦:サービスを有料にするのはなぜか?. 新評論, 2018, 225p.