E2203 – 第30回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会<報告>

カレントアウェアネス-E

No.381 2019.12.05

 

 E2203

第30回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会<報告>

関西館文献提供課・大島康作(おおしまこうさく)
利用者サービス部政治史料課・鈴木宏宗(すずきひろむね)

 

 2019年9月18日から21日までの4日間,「日本学資料の再考 Rethinking resources for Japanese studies」を全体テーマとして,ブルガリアの首都ソフィアにある聖クリメント・オフリツキ・ソフィア大学講堂を会場に第30回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会が開催された(E2073ほか参照)。13のセッションに分かれて37件(51人)の発表が行われ(英語による発表が23件,日本語による発表は14件),朝日新聞社や紀伊国屋書店などによるリソース・プロバイダー・ワークショップも実施された。

 今年の大会には,19か国から92人が参加した。地域別にみると欧州から45人,北米から8人,アフリカから1人,日本から38人であり,欧州ではセルビア,ウクライナ,ロシアといった東欧圏からの参加者があったものの,イタリアやスペイン等の南欧からの参加者はなかった。参加者は,研究者から司書,学芸員等の資料提供機関の職員まで幅広く,さらに発表の内容も特定の地域における日本学・日本研究の状況,日本語資料の活用のための取り組み事例の紹介,日本語資料そのものについての研究など,多様なものであった。以下,いくつかを紹介したい。なお,EAJRSのウェブサイトには,プログラム及び各発表概要のほぼ全て,プレゼンテーション資料は37件の発表のうち22件が掲載されている。

 日本語文献の研究では,近年日本国内でも盛んになっている近世期の書物史研究にあたる報告があった。英国・ケンブリッジ大学のコーニツキー(Peter Kornicki)氏による「アメリカへ持ち込まれた最初の書籍」では,米国に最初に運ばれた日本語の書籍の存在と日本学の発生に関連があるのではないかとの示唆があった。ロシア科学アカデミーのシチェプキン(Vasilii Shchepkin)氏の「ティチングの遺残を求めて―P.シーリングが収集した日本近世古典籍」では,欧州における日本情報の流れを垣間見ることができ,書籍の流通から日本研究の経緯を考察することが可能とも受け取れた。元ケンブリッジ大学図書館の小山騰氏も「ケンブリッジ大学図書館所蔵斎藤月岑の『増補浮世絵類考』の来歴について」において,幕末・明治期に日本に滞在した英国の外交官であるアーネスト・サトウが同書をどのようにして入手したのかといった人的ネットワークを考察していた。これらの報告は,書物史であるとともに日本学・日本研究の学史にも関連するものであり,EAJRSならではの発表といえるであろう。

 また,資料提供に関する発表では,デジタル化した資料をどのように提供するかという報告にも興味深いものがあった。米国・カリフォルニア大学バークレー校C.V.スター東アジア図書館のマルラ(Toshie Marra)氏は「より使える資料にする:UCバークレー校 C. V. スター東アジア図書館所蔵「家伝集」写本を事例として」で,掲載人物を調べやすくするために行った写本の電子化とテキストデータ化について,具体的な方法と手順を紹介した。米国・ミシガン大学図書館の横田カーター(Keiko Yokota-Carter)氏の「すべての人に日本研究資料を! : 視覚障害利用者へのアクセスを改善するプロジェクト」では,同図書館のデジタルコレクション内にある二つの資料(日本占領期の資料である日本国憲法の「人権」普及のためのスライドと近世期の絵本資料)について説明する文章を音声で読み上げて視覚障害者にも提供できるようにするプロジェクトにおいて,同大学の学部学生を巻き込んで取り組んだことが紹介された。

 国立国会図書館からは,筆者(鈴木)が,「憲政資料デジタル化の現況と計画: 個人文書の「書類」の特質を例として」との題で,憲政資料(政治家の旧蔵書簡や書類)のデジタル化の優先順位やインターネット上での公開状況を紹介するとともに,伊藤博文,長崎省吾,勝海舟の各関係文書を例に,個人文書に含まれる書類における旧蔵者の痕跡やその持つ情報について指摘を行った。あわせて,筆者(大島)が,国立国会図書館による図書館向けデジタル化資料送信サービスの海外の図書館等への提供の概略を説明した。後者に対する会議参加館からの関心は高く,別途ランチタイムに申請手続き,利用方法,必要なシステム等について更に説明する機会を持つことができた。大変に良い機会であった。

 次の大会は,ロシア・サンクトペテルブルクのロシア科学アカデミーで2020年9月16日から19日に開催の予定である。

Ref:
http://eajrs.net/
https://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2019/190422_01.html
https://www.ndl.go.jp/en/library/dcts/index.html
E2073